2024年4月29日月曜日

『九度目の十八歳を迎えた君と』浅倉秋成著 感想・レビュー どうでもいいことに一生懸命になれる高校時代

不器用な青春時代

みんな夢を諦めたわけじゃない、今できる最良の跳躍をするんだ。

社会人になった今なら分かることだけど、あの頃気の利いた言葉が全く出てこなかった。

これは、タイムループ作品ではないしファンタジーでもない。


浅倉さんの伏線が光る青春ミステリ作品。


あらすじ

そこそこの印刷会社で営業マンとしてのノルマを熟す間瀬(ませ)は、通勤途中のホームで、同級生の姿を目撃する。

彼女は、僕が高校時代に恋をした二和美咲(にわみさき)だった。

だが、二和は制服に身を包み、見た目もあの頃のまま、未だ十八歳として高校に通っていた。

僕と二和は同い年。

本来ならば30歳目前であるはずだった。

なぜか周囲の人たちは彼女のその姿を違和感なく受け入れる。

僕は、現在の彼女の同級生と協力し、 原因を探っていく。


ネタバレ感想

設定に無理があるし、ん?となる箇所もあるけれど、その辺はさすが浅倉秋成さん、ラストまで読ませる筆力がありました。

間瀬の原因とか、二和さんの返事とかうやむやで終わってしまったが、全体を通して自身の青春時代とリンクさせたりして面白かった。

間瀬が彩雲に入れた夢、一番知りたかったな。

戻って来た彩雲を手に取るシーン、ちょっと泣きそうになった。

彩雲

同級生たちがそれぞれ大人になっていてみんないいやつ。

二和が一番掴みどころない感じ。

『教室が、ひとりになるまで』と違って、キャラが魅力的なのが良い。

真鍋と教頭先生が好き。

『サニー』と呼ぶのが笑っちゃうけど、ほうじ茶と和菓子を持って新聞部に居座る教頭先生がかわいい。

“青春の空回り"うまいこと言うなあと感心。


『九度目の十八歳を迎えた君と』私の評価は★3

ストーリー  ★★★☆☆  3
キャラの魅力 ★★★★☆  4
衝撃度    ★★★☆☆  3
おすすめ   ★★★☆☆  3

2024年4月18日木曜日

『スイッチ 悪意の実験』潮谷験著 感想・レビュー 思ってたのと違う

嘘つきは誰?

脳内コイントスで人生を歩んできた主人公のサイコパスぶりと実験参加の報酬が魅力的。

あらすじだけ読むとめっちゃ面白そうだが、


後半は完全に裏切られた。

タイトルも装丁(文庫)もシンプルで目立つので、思わず手に取りたくなるのは分かる。

ただ、心理描写のくだりはあまり理解できない。

誰に対しても感情移入ができない心理学ミステリ。


あらすじ


押す? 押さない? どうする? どうなる? こんな結末読めないよ…………!

夏休み、大学生の小雪は、就職浪人中の先輩香川からバイトの話を持ち込まれる。

インストールされたアプリスイッチをもって1ヵ月暮らすだけの簡単なお仕事。

日当は1万円、そして1ヶ月後のボーナスは、100万円

スイッチは押しても押さなくても報酬に変化なし。

「誰も押すわけがない」と参加者たち全員が思っていた。

だが、この奇妙な心理実験は思わぬ方向へ。


ネタバレ感想・レビュー

『時空犯』が面白かったので購入。

破格のアルバイト料で心理学実験に参加した6人。

スイッチを押しても、参加者にペナルティはなく、ただパン屋さんが破滅するだけ。

スイッチを押すか押さないかで後半まで引っ張るストーリーかと思ったら甘かった。

前半で押されてしまい、後半は押した犯人S探しとなります。

さらに、殺人事件まで。

幼少期、悪魔呼ばわりされた主人公の邂逅など、ストーリーに一気に引き込まれます。

実験の立案者の安楽さんが、まだ魅力的に描かれているのが救いですが、他のキャラはうーん。

玲奈と大我が純粋すぎる。

なぜか香川さんだけアル中という設定。

ストーリーの要にご都合よく使われている彼女が不憫だった。

「純粋な悪」を燻りだす実験なのに、薄っぺらいハッピーエンドで終わった。

宗教論が出てきた辺りから読むのが苦痛。

分かりやすかったねと語る主人公たちに、どこが??と思わずつっこんだ。

「光意」にたどり着いた一人である小雪の脳内の組み換えがいまいち理解できず、みんなの心を救う展開も微妙。

でも、❝自分の価値をゴミ箱に捨てるのは人を無作為に傷つけるのと同じ❞

という言葉は刺さった。


『スイッチ 悪意の実験』私の評価は★2


ストーリー  ★★★☆☆ 3
キャラの魅力 ★★☆☆☆ 2
衝撃度    ★★★☆☆ 3
おすすめ   ★★☆☆☆ 2











2024年4月4日木曜日

『教室が、ひとりになるまで 』浅倉秋成著 感想・レビュー 最高のクラス、もう二度と会いたくない友達

スクールカースト、ヒエラルキー

学生時代、自身の立ち位置がどの層だったかによって、この本の内容の受け止め方が変わると思う。

4人の受取人という非現実的なストーリーの特殊ミステリ。


だけど読み応えあるし、綺麗に終わります。


あらすじ


さようなら。もう二度と会いたくない、××の友達たち。


私立北楓高校のクラスで起きた連続自殺事件。

そのクラスは合同でレク企画を立ち上げる最高のクラスだと思われていた。

「私は教室で大きな声を出しすぎました。調律される必要があります」

彼らは何故、同じ文面の遺書をしたためて自殺をしたのだろうか。

幼馴染の白瀬美月は、怯えながら垣内友弘に話す。

みんな死神に殺された。

次はこずえの番だと。

そんな中、垣内に不思議な手紙が届き、嘘を見破れるという能力を授かる。

3人の死の真相を追いながら、たどり着いた真相とは。


ネタバレ感想

もし、この本を中学生高校生時代に読んでいたらとても苦しくなったかもしれない。

友達と仲の良いフリをするのは疲れる。

強制参加のレク企画。

楽しいのは一部だけ。

俺らは頑張って最高のクラスにしようとしてたんだよという思いは人によっては迷惑なだけ。

偽物の友達ごっこ。

わりと犯人(死神)は早く分かる。

後は、犯人の能力や目的は何なのかに焦点を当て、垣内は一軍の生徒と一緒に動き回る。

読み進めていくうちに、タイトルの「ひとりになるまで」の意味合いが変わって来る。

動機は分かったけれど、犯人はそれだけで3人の生徒を自殺させるのはひどい。

お咎めもないんだよね。

そして八重樫の暴力はちょっと無理。

主人公の垣内が何考えてるのかよく分からないのは、ちゃんと意味があった。

伏線回収はさすが。

美月が綺麗な心の持ち主なのが救われた。

『教室が、ひとりになるまで 』私の評価は★4


ストーリー  ★★★★  4
キャラの魅力 ★★★   3
衝撃度    ★★★   3
おすすめ   ★★★   3




『剝製の街 近森晃平と殺人鬼』樹島千草(きじまちぐさ)著 感想・レビュー 人の根底にあるもの

耽美で禍々しい芸術 完全にカバー買いです。 この作品の剥製のイメージは蠟人形っぽい感じ 装丁は西村弘美さん。 イラストレーション/人さらいさん とありましが、「人さらいさん」は、調べても分からなかったです。 タイトルがちょっとダサい感じがしますが、イラストに惹かれた。 過去の事件...