2024年3月28日木曜日

『悪い夏』染井為人著 感想・レビュー 世の中こんなもん

どれだけ自分という人間を保てるか

この作品は、負の人物が圧倒的に多い。

まともな人間がいない。


騙すより騙される方がいいと言う人は、騙されたことがないから。

敢えてジャンルを付けるなら社会派ミステリかな。


あらすじ

3年の我慢だ。

26歳の佐々木守は、生活保護受給者のもとを回るケースワーカー。

同僚の高野が、若いシングルマザーに保護打ち切りをしない代わりに肉体関係を迫っていると知る。

守はその女性の家を訪ね、真相を問うが、彼女の歯切れが悪い。

だが、その出会いが守の人生を180度変え、負の連鎖に巻き込まれる。


感想・レビュー

関わってはいけない人っているんだな。

負のオーラを持つものは平気で人を騙したりできるんだ。

美空のイメージ

本当に保護を受けなくてはいけない人にはお金は回って来ず、ごね得で受給を受けれるのが酷い。

最低賃金で稼いだ人たちより遥かに多くもらってる生活保護。

さらに年金より多いというのがひどい。

本当に働けない人たちが受けるのは良いけれど、働けるのに理由を付けて働かない人たちが腹立つ。

仕事をしなくてはいけないんだと思わせないと。

不正受給者は一体何人いるんだろう。

さて、守はごく普通の青年だったのに、関わってしまった人物が悪く人生が狂ってしまう。

ただそんな守にも同情の余地はない。

愛美たちがどうなったか描かれていないけれど、逮捕されたはず。

彼女にちょっとだけ母性が芽生えたのは守のおかげか。

ラストはみんな集まって三谷幸喜作品のようになっていた。

胸くそ悪いストーリーで読後感はよろしくないが、伏線回収とオチもちゃんとおりさすが染井作品といった感じ。

映画化決定で配役が気になるところ。


『悪い夏』私の評価は★4

ストーリー  ★★★★ 4
キャラの魅力 ★★★  3
衝撃度    ★★★★ 4
おすすめ   ★★★★ 4




2024年3月24日日曜日

『ディープフェイク 』福田 和代著 感想・レビュー 良いニュースは拡散しない 

現代の魔女狩り

ディープフェイクの対抗策はあるのだろうか

湯川先生のイメージ

終始胸くそ悪い展開。

主人公は悪人じゃない、むしろ善人。

彼を陥れた人物は誰?

全員なんだか怪しい。

顔の見えないネット住民たちに楔を打つ作品になればいい。


あらすじ

生徒間の殺傷事件を未然に防いだことから、メディアに称えらえれ、「鉄腕先生」としてテレビで活躍する湯川教師。

辻川先生のイメージ
だがある日、彼が女生徒とホテルで密会したという報道がされる。

身に覚えのない写真に戦慄を覚えた湯川だが、人格を否定されるようなバッシングに合う。

さらに、湯川が生徒に暴行を加えている動画もネットに拡散。

SNS上での誹謗中傷、メディアの報道の真偽のあり方などを問うサスペンス。


ネタバレ感想

とにかく目立ってはダメ、嫉妬の対象になったらダメってことしか対抗策はないのか。

逆恨みもあるし。

フェイク動画の拡散、虚偽の書き込みに対する罪など、早く法を整備してほしいと思った。

湯川の周りには懇意にしている記者、メディアで活躍する塾講師、教頭など信頼できる味方がたくさんいたから助かった。

じゃあ私たち一般人はどうなるんだろう。

自分がその立場になったら?と思うと不安に駆られますが、勉強になる作品でした。

フェイクかどうか見破れる技術もあるはずと思いたい。



『ディープフェイク』私の評価は★4

ストーリー  ★★★★☆  4

衝撃度    ★★★★☆  4

キャラの魅力 ★★★☆☆  3

おすすめ   ★★★★☆  4



2024年3月20日水曜日

『正義の申し子』染井為人著 感想・レビュー キャラ全員好きじゃない(笑)

染井為人さんの小説で一番好き

ジョン(ユーチューバー)、鉄平(悪徳請求業者)、萌花(女子高生)の視点で話が進み、複雑に絡み合っていく。

私はいつも誰かに感情移入してしまいがちですが、この小説のキャラは誰のことも好きになれなかった。

私は関西人だけど、鉄平の話し方は違和感なしにすんなりと受け入れることができた。

正義の申し子の怒涛のストーリー展開は、ドキドキするし笑えるし大いに楽しめるエンタメ小説となっている。

 

あらすじ

妹を敵視する引きこもりのひょろひょろ男、純は、マスクを被ると大人気ユーチューバーへと変身する。


最近では悪徳請求業者に生配信で説教するネタが受け、フォロワー数を増やしていた。

ある日関西弁を話す男との生配信がバズりまくり、ジョンは味を占め、再対決を目論む。

一方鉄平は、ジョンにコケにされ怒り心頭。

ジョンを探そうと躍起になる。

そして、ひょんなことから鉄平に恋をする夢見る女子高生も登場し、終着点が分からなくなっていく


ネタバレ感想


最初は、ジョン側になって悪徳業者をやっつけるシーンが面白くわくわくして読み始めた。

鉄平に居場所見つかったらどうしようとジョン側を応援していたが、蘭子に暴力を振るったところは許せなくて、鉄平側になって読む。

だが、鉄平も大概で、何も悪くないタクシーの窓ガラスを割ったりする。

彼の母親がクソすぎて同情してしまうところもあるけれど、暴力的だしやっぱり好きじゃない。

でもどうしてどうしてそんな二人がタッグを組むんだ(笑)

そこへ至るまでの過程から想像もつかない方向へ向かい、めっちゃ面白い。

何より鉄平が、純(ジョン)にツッコみまくるところが笑える。

ラストすごい好き。

この2人いつまでも一緒に居られるかも。

なんせ鉄平の後輩が裏切り過ぎて、純が可愛く見えてしまう。

萌花と鉄平は再会なしで良い思い出として終わって欲しいなあ。

映像化しやすい作品だと思うし見てみたい。

鉄平役は間宮祥太朗さんとか似合いそう。

ジョンは本郷奏多さんが二重人格をうまく演じれそう。

染井さんの小説はハズレがない。

『正義の申し子』私の評価は★5


ストーリー  ★★★★★ 5
キャラの魅力 ★★★★☆ 4
衝撃度    ★★★★★ 5
おすすめ   ★★★★★ 5




2024年3月10日日曜日

『海神』(わだつみ)染井為人 感想・レビュー 悪い人間は必ずいる

インゴットは作り上げたファンタジーなのか

「NPO法人大雪りばぁねっと事件」がモデルになったっぽい。

岩手県にある有人島、天ノ島が舞台。(架空の島)

人の心の弱みに付け込む大悪党遠田(えんだ)が、どのように島に潜り込み、荒らし、彼に制裁を加えることができたのか、島は再生できたかまでを描く。


あらすじ

東日本大震災により甚大な被害を受けた小さな天ノ島。


ボランティア不足の中、現れた迷彩服を着た巨漢の男性。

彼は、テキパキと島民に指示を出す。

やがて、島民ほぼ全員から信頼された遠田は、復興支援金を私利私欲で使い込んでいく。


登場人物

千田来未(せんだくるみ)  震災の日に生まれた子。金塊インゴットを海中から拾う。

遠田政吉(せいきち)    NPO法人ウォーターヒューマン代表。

小宮山洋人(こみやまひろと)遠田側近。リース会社ブルーブリッジ代表。

江村汰一(えむらたいち)  遠田の右腕。彼同様迷彩服に身を包む。華奢な少年。

菊池一朗(きくちいちろう) 今日新聞東北総局宮古通信部。天ノ島出身のエリート。

俊藤律(しゅんどうりつ)  東京のフリージャーナリスト。一朗と親しい。

三浦治(みうらおさむ)   消防団リーダー。妻は陽子。

椎名姫乃(しいなひめの)  20歳大学生。東京からのボランティア。遠田のお気に入り。

堤佳代(つつみかよ)    ナナイロハウス臨時職員。元助産師。

中村昭久(なかむらあきひさ)ナナイロハウス職員。佳代とは幼馴染。元漁師。


ネタバレ感想

時系列がややこしいけど、その手腕がストーリーを面白くしている。

キャラの描き方が圧倒的に素晴らしく、その人となりが容易に想像できて読みやすい。

震災の描写はとても辛く、悲惨だった。

震災直後、復興が進み出す2年後、そして10年後が3人の視点で描かれていく。

誰も助けてくれない絶望の中、現れた遠田。

彼は復興支援金の1/3である4億2千万を使い込む。

何人かは彼に違和感を覚えたが、考える気力さえも失われていた島民たちは彼の言葉に飲まれていってしまう。

天ノ島と一切関係ない人物になぜ巨額のお金の運用を任せたのか理解に苦しむとはいえない状況がそこで起きていて悲しすぎる。

詐欺の片棒を担ぐ羽目になった姫乃が辛い。

千草がクビになったり、隠し部屋を発見した時点で気付けば良かったのだが、マインドコントロールされていたんだなあ。

そして江村がもっと早く救われて欲しかった。

アレキシサイミアという症状を海神で初めて知った。

少し感情を持ち始めた江村の姿をまだまだ見たかった。

もう姫乃と会うことないのかなあ。

読んで良かったと思える作品。


『海神』私の評価は★4

ストーリー  ★★★★☆ 4
キャラの魅力 ★★★★☆ 4
衝撃度    ★★★★★ 5
おすすめ   ★★★★☆ 4

『剝製の街 近森晃平と殺人鬼』樹島千草(きじまちぐさ)著 感想・レビュー 人の根底にあるもの

耽美で禍々しい芸術 完全にカバー買いです。 この作品の剥製のイメージは蠟人形っぽい感じ 装丁は西村弘美さん。 イラストレーション/人さらいさん とありましが、「人さらいさん」は、調べても分からなかったです。 タイトルがちょっとダサい感じがしますが、イラストに惹かれた。 過去の事件...