2023年5月24日水曜日

『陽炎太陽(かげろうたいよう)』綾崎隼 感想・レビュー ワカマツカオリさんの絵が好き

初恋か恋人か

「花鳥風月シリーズ」5作目。


今回のテーマは「太陽」

容姿に優れ、東日本を牛耳る名家の舞原一族が今回も登場しますが、主人公は舞原サイドではありません。

舞原零央(れお)『蒼空時雨』の再登場は嬉しい。


あらすじ

村の開発リゾートを手掛ける一族の娘の為、転校生の舞原陽凪乃(まいばらひなの)は過疎化の進む朝霧村の小学校で嫌われていた。

響野一颯(きょうのいぶき)は、サッカーを通じて彼女と親しくなる。

だが、ある日誘拐事件が起きてしまう。

時は流れ、大学生になった一颯は、嶌本和奏(しまもとわかな)と交際を始める。

和奏へのプロポーズを考えていた一颯だったが、ある日、長い間音信不通だった彼女と再会する。


ネタバレ感想


小学校を共に過ごした美少女と再会したら、何年も付き合った彼女をあっさり捨ててしまう主人公に驚いた。

やっぱり性格より見た目なんかいってツッコみたくなった。

零央(れお)くんは、名前出てきただけ。

そしてこのまま陽凪乃とくっ付くのかと思ったけど違ったので良かった。

でも、なぜこのタイミングで陽凪乃は現れた?

もっと前に現れてくれても良かったのにとは思った。

病院を抜け出しての夜の散歩が叔父や両親に、ドクターまで空想だと思われていた一颯。

一颯が見ていたのはどこからが現実で虚構なのか。

一颯に彼女がいなかったら、陽凪乃は付き合うつもりだったのかな。

読み手をラストに驚かせる仕掛けはすごいと思うけど、3人とも好きになれない。

ラストの部分はいらない方が綺麗かも。

大人になってからの陽凪乃は嫌な女だし、一颯は初恋引きずってるし、和奏は依存してる。

めっちゃ昔の設定かな?

田舎は怖いなーってのが感想。



『陽炎太陽』私の評価は★2


ストーリー  ★★★☆☆  3
キャラの魅力 ★★☆☆☆  2
衝撃度    ★★★☆☆  3
おすすめ   ★★★☆☆  3



2023年5月23日火曜日

『この恋が壊れるまで夏が終わらない』杉井光 感想・レビュー バッドエンドは変えられない

終わらない夏を繰り返す


大好きな先輩を助けるために何度もタイムループする主人公。

恋が実らないと分かっていても…。



あらすじ


12時間きっかり、時を遡る力を僕は持っていた。

能力を活用せずに平凡と過ごす僕は、高校で初恋を経験する。

相手は3年生の久米沢純香。

放課後は図書室に入り浸り、彼女が薦める本を読み、気の遠くなるようなルーティン作業を手伝っていた。

そして、彼女に薦められるまま、美術部にも入部する。

だが、夏休み最後の日、先輩は死体となって発見された。


ネタバレ感想


登場人物

柚木啓太(ゆずきけいた)高校一年生

久米沢純香(くめざわすみか)高校三年生。図書委員長。

幾原典明(いくはらのりあき)40代半ば。美術部顧問。

道永(みちなが)高校二年生。美術部幽霊部員。油絵が得意。

燈子(とうこ)啓太の幼馴染。水泳部。


杉井さんの作品は、表現が独特。

綺麗なんだけど想像しにくい。

私の想像力が単純に追い付かなかった。

↓たとえば、こちら電車に乗っているシーン。

❝××の肩口あたりにできた影の向こうで、小さな夜のかたまりを線路沿いの街灯の光が一定のリズムで引っ搔いていた。❞

??

私電車は通勤で毎日利用しますが、どういう状況か分からなかったです。

──心ここにあらずみたいな感じなんかなあ。

でも人物像を本に例えてるのは好き。

❝表紙を見て気に入っただけで、まだ開いてもいないんじゃないのだろうか。❞

──その人の表面だけを気に入っていて中身を全く知らない。


純香先輩は、後半にさしかかるにつれ嫌悪感でいっぱいになる。

主人公がタイムループ(巻き戻し)するたびに、体が悲鳴をあげていく。

どう動いたって先輩が殺されるのを止めることができない。

でも、そこまでして彼女を助ける意味があるのかなと思ってしまった。

ただ、燈子と道永先輩は好感が持てるキャラなので、彼女らと関わる時の主人公は好きだ。

ラストどうなったか、はっきりとは描かれていないため、想像しなくちゃならないんだけど、純香先輩は読めない。

でも、主人公の側にはずっと燈子がいてくれるんだろうな。


『この恋が壊れるまで夏が終わらない』私の評価は★3


ストーリー  ★★★★☆  4
キャラの魅力 ★★☆☆☆  2
衝撃度    ★★★★☆  4
おすすめ   ★★★★☆  4







2023年5月14日日曜日

『エンドロール』潮谷験 感想・レビュー 物語には終わりがある

 『物語論と生命自律』最も危険な書物

ジャンルは何だろう、社会派?

まず、話の流れが全く掴めないのがこの小説の魅力。

シンプルに説明すると自殺を肯定する側と否定する側の戦い。

物語には終わりがあるが、現実は?という哲学っぽいテーマに触れながら、時事ネタも取り入れ、ストーリーは進む。


あらすじ

202X年。

疫病が蔓延。

そのため、空虚な時間を過ごす羽目になった若者たち。

体を動かすことも学習も疎かになり、疫病が落ち着いた現在も不利益を多く被った若者たち。

そんな彼らの間である本が囁かれる。

哲学者、陰橋冬(かげはしとう)著『物語論と生命自律』。

彼は、自伝を国会図書館に納本し、自殺の末路を辿った。

そして彼を真似た自殺者数は推定200人。

高校生の雨宮葉(あめみやよう)は、早世した人気作家・雨宮桜倉(あめみやさくら)を姉に持つ。

姉が生前陰橋と交流があったため、遺作が若者の自殺を肯定していると受け止められないように奔走する。


ネタバレ感想


自殺反対派

雨宮葉 主人公。姉の作品にこだわりを持つ。

遠成響(とおなりひびき)人気ユーチューバー。女性。

箱川嵐(はこがわあらし)名門サッカー部所属。
           VS
生命自律主義者

長谷部組人(はせべくみひと)何を考えているか全く分からない。

尾戸陽一(おどよういち)組人と同居している。

新川ひなた(しんかわ)    〃   女性。



生配信の討論対決に始まり、決着がままならないまま第2回戦に突入。

その際、事件が起き、疑心暗鬼に駆られます。

葉の姉が伝えたかったのは何なのか。

組人は何を考えているのかを軸にストーリーは進む。
ジンジャエールが飲みたくなる


葉より組人の方が魅力があった。

嵐の考えがポジティブで良かった。

二転三転するけど万人受けしないストーリーだった。

葉の姉が残した言葉が全然刺さらなかった。

同作者が書いた『時空犯』は好きです。


『エンドロール』私の評価は★2

ストーリー   ★★☆☆☆  2
キャラの魅力  ★★☆☆☆  2
衝撃度     ★★☆☆☆  2
おすすめ    ★☆☆☆☆  1

2023年5月10日水曜日

『法廷遊戯』五十嵐律人 感想・レビュー 正義の心か良心の呵責か

❝罪を犯したか否かは、真理を見抜ける神にしか判断できない❞


二転三転する法曹ミステリ

❝無辜(むこ)❞という言葉初めて聞いた。

主人公の清義(きよよし)より審判者であった馨(かおる)が魅力的に描かれている。

真相は決して暴いてはいけない。


あらすじ 

法曹の道を目指してロースクールに通う、3人の秀才。

結城馨(ゆうき)は、ロースクールに籍を置くが、司法試験を突破している。

久我清義(くが)と織本美鈴(おりもとみれい)は、過去を隠し、関係をも隠す。

だが、清義を陥れるために開催された無辜ゲームをきっかけに、美鈴にも危険が及ぶ。

ロースクール卒業後、一人は弁護士、一人は被告人、一人は命を失う。


ネタバレ感想

法曹の専門用語が連発するけどさほど気にならなかったし、読み応えはある。

ただ、人物像には魅力を感じない。

3人の中で一番感情移入できそうなのは、馨かな。

法廷

前半の無辜ゲームの章は素直に面白かった。

清義と美鈴が共依存するぐらいの仲というのがあまり描き切れなかったような。

美鈴がそこまで清義のこと思ってたのがよく分からない。

彼女は口を閉ざし過ぎていらいらした。

サクの方が可愛げがある。

馨がどうやって、2人の身元を調べ上げたのかは気になる。

ストーリーの最大の見せ場である杉咲花さんと、北村匠海さんの演技合戦は面白そう。

清義の選択は合っていたのか、ちょっともやもやが残る。

リンドウ

馨の方が清義より主人公らしい。

彼の成しえたかった思いを考えると辛いし、どんだけ努力してきたのだろうと思う。

馨の保険を掛けた相手が、どんな選択をするか分かっていたのかな。

それともそういう選択をしてほしくて保険を掛けたんだろうか。


『法廷遊戯』私の評価は★4


ストーリー  ★★★☆☆  3
キャラの魅力 ★★★☆☆  3
衝撃度    ★★★★☆  4
おすすめ   ★★★★☆  4



2023年5月1日月曜日

『世界でいちばん透きとおった物語』杉井光 感想・レビュー 紙の本の魅力

電子書籍不可。タイトルとデザインが美しい

完全に第三者的な立場から読んだ。

透きとおるイメージ

主人公に感情移入はできず、誰に対しても共感できないけれど、読んでよかったと思える透きとおる作品。
あらすじ 

藤阪燈真(ふじさかとうま)は、フリーランスの校正者である母と二人暮らし。

父は、大御所のミステリ作家の宮内彰吾(みやうちしょうご)。

だが、父とは一度も会ったことはない。

なぜなら、父は妻帯者でありながら母と交際していたからだ。

母を亡くし1人で生きていた燈真は、父の訃報を知る。

そして、ある日、宮内の長男から連絡が入る。

その内容は、親父が死ぬ間際に書いていた遺作を探してほしいという依頼だった。


ネタバレ感想


女癖は悪いけれど、ミステリ作家としての父親は超一流。

複雑な思いに駆られながら、燈真は父と関係の深かった3人の女性に会いに行く。

父の大ファンであり、母とも親しくしていた文芸編集者の霧子(きりこ)さんが怪しいなと思いながら読みました。

でも、父がどこかで書いていただろう『世界でいちばん透きとおった物語』という小説の内容を、燈真同様知りたくてうずうずします。

三分咲き
彼は贖罪のつもりで書いたのか、ミステリの最高傑作なのか、それとも書ききれなかった作品なのかが気になるところ。

燈真は、なぜバイトしかしてないんだろう、霧子さんが好きとか無理やんと思いながら読み進めていきます。

燈真の邪魔をする存在が現れた辺りから、ミステリっぽくなって面白くなります。

そして真実にたどり着いたとき、感動の波が押し寄せた。

必ずラストまで読んでほしいし、気付いて欲しい。

タイトルの意味も。

京極夏彦さんの作品も読みたくなった。

電子書籍での出版の予定はないそうです。

『世界でいちばん透きとおった物語』私の評価は★3


ストーリー  ★★★☆☆  3
キャラの魅力 ★★☆☆☆  2
衝撃度    ★★★★★  5 
おすすめ   ★★★★☆  4



『剝製の街 近森晃平と殺人鬼』樹島千草(きじまちぐさ)著 感想・レビュー 人の根底にあるもの

耽美で禍々しい芸術 完全にカバー買いです。 この作品の剥製のイメージは蠟人形っぽい感じ 装丁は西村弘美さん。 イラストレーション/人さらいさん とありましが、「人さらいさん」は、調べても分からなかったです。 タイトルがちょっとダサい感じがしますが、イラストに惹かれた。 過去の事件...