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2023年4月26日水曜日

『三日間の幸福』三秋縋 感想・レビュー 自分の命の価値は?

長い人生より凝縮された三日間


この作品は、「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」(全3巻)というタイトルでコミック化されています。

設定はリアリティがありません。

だけど、簡単に想像しやすく、ストーリーに入り込めます。ハードモードな人生を歩むのが特徴です。

救いようもなく、もがいてあがいて、これを勝ち取るために今まで苦しかったんだ、報われたっていう単純なストーリーでもなく。

答え合わせといきましょうか。

監視員が単純に10歳の時別れたあの子だと思っていた。


あらすじ


未来に何の価値も見いだせなくなった大学生のクスノキは、生活費にも困り、大切な本とCDを売る。

そこで、寿命を売ることができる店を教えてもらったクスノキは、命の査定をしてもらうが、付いた値段はとんでもなく安い金額だった。

彼の前に現れた監視員ミヤギを半ば鬱陶しく思いながら、死ぬ前にしたいことを考え、幸せを摑もうと張り切るが、何をやっても上手くいかなかった。



ネタバレ感想   

❝「答え合わせといきましょうか。」❞

連絡を取った人たちと和やかな雰囲気になると勝手なイメージを持っていたクスノキだが、この言葉で現実を知る。

こういうところが、三秋さんの小説が好まれる理由かな。

途中までヒメノとミヤギが同一人物だと思ってた。

ミヤギは10歳で別れたヒメノで、再会した2人は離れていた間の思い出話をしながら、残りの人生を過ごすという単純なストーリーではなかった。

ヒメノはクスノキを恨んでいるし、仲良かったナルセも実はそこまで好きじゃなかったとか、人生イージーモードじゃないんだなってとこにリアリティがあった。 

サラリーマンの生涯年収は、2~3億円と言われているから、自分の価値もそれくらいで億単位を貰えると思っていたら、1年1万円という破格の値段。

そして、その値段も違っていて本当は30円。

缶ジュースより安い値段だった。

きっと私もこんな値段なんだろうな。

自販機巡りという発想もすごいなと思った。
レトロ自販機


蛇足的な部分や後付け感が多くて、そうだったっけ?ってなるところがあるが、元はWEB小説だと聞いて納得。

クスノキは友達はいないと言っていたのに、高校生時代はナルセと過ごしていたとか、アピールしてくれてる女の子いたとか。

小学生時代も途中までだけどヒメノと一緒に過ごしてた。

ずっとぼっちってわけじゃない。

さらにクスノキは、容姿にちょっと恵まれているし、ヒメノは超絶美少女だった。

ヒメノに囚われすぎて、幸せを掴めなかった。

だけど、ラストは良かった。

周りの目を気にせず、ミヤギをエスコートする彼は素敵だった。

クスノキとミヤギの三日間は詳しく描かれていないけど、そこもまた良い。

『三日間の幸福』私の評価は★3


ストーリー  ★★★☆☆  3
キャラの魅力 ★★☆☆☆  2
衝撃度    ★★★☆☆  3
おすすめ   ★★★☆☆  3






2023年4月9日日曜日

『スターティング・オーヴァー』三秋縋 感想・レビュー 2周目の人生

三秋縋のデビュー作



「スターティング・オーヴァー」ジョン・レノンの楽曲タイトル、意味は、やり直す。

あり得ない設定から始まりますが、不思議とハマすり、終わり方も綺麗だ。

殺してやろうとか驚く描写が出てくるけど、心情の描き方はすごいなと思うし、共感できるところもある。

僕が語り口の一人称でストーリーは進む。


あらすじ

❝これは、

二十歳の誕生日を迎えた僕が、

十歳まで時を巻き戻されて、

再び二十歳になるまでの話だ。❞

神様が与えてくれたやり直す人生。

だが、どう考えてもやり直したいことがないくらい、一周目の僕は完璧な人生を歩んでいた。

二周目の人生はどこかで歯車が狂い、徐々に落ちぶれていく。


ネタバレ感想

一周目の僕は幸せだった。

二周目も元の人生に準えて同じように進むつもりだったが、つまずく。

そして、一周目で恋人だったツグミにフラれてしまう。

再会したツグミの横にはトキワがいた。

ミニクーパーのイメージ

トキワは一周目の僕。

ドッペルゲンガー現象。

この辺りからめっちゃ面白くなった。

スクールカースト上位だった僕が、下位に転落。

陰キャサイドの僕が描かれる。

親友だったはずの人間に虐められたり、友達がいなくて無意味な時間を過ごしたり。

ウスミズにお金あげるのはちょっと理解できなかったけども(笑)

妹と僕の関係性が微笑ましくて好き。

「おかえりー」のくだりが可愛すぎた。

今の瞬間、頑張れてない人たちへ、エールを送ってくれるストーリー。


『スターティング・オーヴァー』私の評価は★4


ストーリー  ★★★★☆  4
キャラの魅力 ★★★☆☆  3
衝撃度    ★★★☆☆  3
おすすめ   ★★★☆☆  3


2023年3月21日火曜日

『恋する寄生虫』三秋縋 感想・レビュー 何もかも虫のせい

マリオネットの恋 

❝自分はこのまま、誰と愛し合うこともなく死んでいくんじゃないか❞

フラれたり、長い間恋人ができなかったりしたら、思ったことあるんじゃないでしょうか。

私はあります。

たとえ、虫のせいであっても出会えて、思いが通じた2人の男女のストーリー。


あらすじ


極度の潔癖症で失業中の高坂賢吾(こうさかけんご)は、ある男性に脅されて、一人の子供の面倒を見るようにと指示される。

子供の名前は、佐薙ひじり(さなぎひじり)。

子供と友達になり、不登校の原因を聞きだしてほしいという依頼だった。

そして、2人の奇妙な関係が始まる。


↓ネタバレ感想↓


脅迫観念に駆られた2人が互いに足りない部分を補い、距離が縮まって恋愛色に変わるストーリーになるかと思っていたら、中盤にやられました。

高坂が開発したワームが巡り巡ってクリスマスに自分の首を絞める制裁を下されたものの、佐薙と会えたのは強い共鳴があったからなのか。

虫のせいなの?と衝撃を受けたと同時に、太陽のせいと言って殺人を犯したカミュの「異邦人」がふっと頭をかすめました。

佐薙が「フタゴムシ」「トキソプラズマ」「エキノコックス」「マンソン裂頭条虫」など寄生虫の話を嬉々として語っていたので、思わず検索してぞわぞわしちゃったり。

虫嫌いなの忘れるぐらいはまり込んで読んだ(笑)

三秋さんは、現実にはありえない設定なのに、境界線を失わせて読ませる話の作り方が本当うまい。

映画はキャストと音楽と映像は魅力的だった。

でも何だろう、惹かれなかった。

オープニングから高坂の○○シーンが多いし、虫がだめ。

何を伝えたいかよく分からない内容になっていた。


『恋する寄生虫』私の評価は★4


ストーリー  ★★★★☆ 4
キャラの魅力 ★★★☆☆ 3
衝撃度    ★★★★☆ 4
おすすめ   ★★★☆☆ 3



2023年3月3日金曜日

『いたいのいたいの、とんでゆけ』三秋縋 感想・レビュー バッドエンドと思いたくない

痛みを伴う余韻を残す


三秋縋さんの作品は、紙タバコやお酒を嗜むなど、世間では不真面目?とされるキャラが良く出てくる。

この作品もそうで、人生をどこかで放り出し、あまり何も望まない無機質なキャラが主人公だ。

感情移入をしたくないキャラだけど共感できる部分もある。

この作品は、目を覆いたくなるような描写が多く、苦しくなるストーリーだけど、ラストまでちゃんと読んでほしい。


あらすじ

あまり外出できなくなった僕、湯上瑞穂(ゆがみみずほ)は、昔自分のせいで文通を絶ってしまった日隅霧子(ひずみきりこ)に一方的に手紙で会おうと綴るが、彼女は現れなかった。

飲酒運転の帰り、人を轢いてしまったと思った僕は、女子高生に思いっきり殴られる。

彼女は死んだことを先送りしたと話す。

10日の猶予を与えらえた僕は、彼女の復讐を手伝うこととなった。

ネタバレ感想


❝人を屈服させるには恥を利用するのが一番だと心得てる人間❞

そういうタイプの人間は、友人も多いし、まさかあの人がという地位を確立しているため、誰も注意できないんだろうなあ。

少女は精神的苦痛と肉体的苦痛を家庭でも学校でも与えられていた。

その内容は凄惨で吐きそうになる。

復讐したいと言う彼女を止める慰めの言葉は、思いつかない。

一時的な慰めでは彼女を救うことはできない。

鬱展開が多し、メンタルがやられてしまう。

だが、ラストに向けて2人の関係性や事実に泣けてくるし、なるほどと思った。

そして、2人の幸せな世界がちゃんとあったのが救い。

進藤や美大生との関係はなくなったのかなあってなったけど。


私がバカなのか「先送り」の能力の定義がいまいち分かりにくく、矛盾箇所がある。

それでも、読んでよかったと思える作品に出会った。

三秋さんの作品は背景の描写が美しい。

❝楓の赤に染まった林の中で********とき、少女は僕の両手を取り、落ち葉の舞う中をからくり時計の人形みたいにくるくる回った。❞

『いたいのいたいの、とんでゆけ』私の評価は★4

ストーリー  ★★★★☆ 4
キャラの魅力 ★★★☆☆ 3 
衝撃度    ★★★★☆ 4
おすすめ   ★★★★☆ 4









2023年2月21日火曜日

『僕が電話をかけていた場所』(下)三秋縋 感想・レビュー たった一人の女の子を救いたい

僕は人魚姫と同じ運命をたどるのだろうか 

この作品は上巻である『君が電話をかけていた場所』の続巻です。

伏線は次々と回収していきます。   

水の泡イメージ

   

切なさを伴いながら。


簡単なあらすじ

陽介は、初鹿野を喜ばそうと、悪友檜原(ひのはら)から天体望遠鏡を借りるが、貸してもらう条件は彼の同行だった。

女子が1人だと怖がると思った陽介は、千草も誘い、4人で天体観測の日常が始まった。

喜ぶ初鹿野を見て満足する陽介だが、彼女が檜原に惹かれていくのを目の当たりにし、心を痛める。

こんな状態で、陽介は初鹿野と両想いになれるだろうか?

初鹿野の空白の4日間とは?


ネタバレ感想              
               

 陽 介 → 初鹿野                       

  ↑     ↓

 千 草 ← 檜 原   

天体観測は、片思いの一方通行。          

陽介は、命を懸けてまで自分を好きでいてくれた千草に対して負い目を感じず、初鹿野に夢中。

反対に檜原は、初鹿野のお見舞いにも行かなかった。

好きな人以外はどうでも良いという心情が見事。

現実ではあり得ないストーリーだけど、不思議とリアリティある世界観が描かれてる。

初鹿野が回りくどかったので、素直に思ったことを伝えた方がいいと勉強になった。

彼女の痣はどうなったのかな。

千草が救われたら良いなと思う。


『僕が電話をかけていた場所』私の評価は★3

ストーリー  ★★★★☆ 5
キャラの魅力 ★★★☆☆ 3
衝撃度    ★★★☆☆ 3
おすすめ   ★★★☆☆ 3




2023年2月17日金曜日

『君が電話をかけていた場所』(上)三秋縋 感想・レビュー コンプレックスを排除すれば恋は成就するのか?

現実に電話がかかってきたらこわいと思う

 夏の不可解な賭けとは?

三秋縋(みあきすがる)さんの作品は、この本が初めてです。

出てくるキャラは美少女が多いけれど、嫌みはないです。

 簡単なあらすじ

顔の右側を覆うような痣を持つ主人公、深町陽介。

彼が好きになった初鹿野唯は、完璧な容姿を持つ少女だった。

彼女は、陽介の痣を素敵だと言ってくれた。

こんな自分を好きになってもらえるわけがないと、思いを伝えないまま小学校を卒業。

中学は別々でそのまま2人は疎遠になる。

高校生になった陽介は、謎の女性と電話で賭けをすることとなった。

以後、初鹿野と陽介は思わぬ形で再会する。

再び出会った2人は元の仲良い友人に戻れるのだろうか。

それとも?

『君が電話をかけていた場所』は、前後編で、『僕が電話をかけていた場所』へと続きます。

この1冊だけでは伏線回収してないし、話がよく分からないままなので、続きを読むのお勧めします。


ネタバレ感想


陽介のコンプレックスがなくなると初鹿野との間に溝ができてしまった。

クラスメイトの千草は、陽介のコンプレックスを知らないまま彼に好意を持つ。

初鹿野の空白の4日間。
廃墟となった鱒川旅館のイメージ

彼女に痣ができてしまった理由。

泡となった人物は誰なのか。           

人魚伝説が今後どう絡んでいくかとか。

続きを読まないと何とも評価しにくいですが、青春時代を思い出し、感傷に浸れる作品です。好きな子とのやり取りで共感したり、ちょっと羽目を外したこととか。

私も星を見るのが好きですが、怖くて夜中に廃墟を訪れる勇気はないので、初鹿野さんの行動力はすごいと思った。

陽介も千草も、メンタルが強く、見習いたいところがたくさんあった。

そして度々、出てくる比喩表現におおっとなります。

❝牡丹、松葉、柳、散菊の段階を経て…❞

線香花火の説明が特に素敵だった。    


『君が電話をかけていた場所』私の評価は★3

ストーリー  ★★★☆☆ 3
キャラの魅力 ★★☆☆☆ 2
衝撃度    ★★☆☆☆ 2
おすすめ   ★★★☆☆ 3

次巻も興味があれば。『僕が電話をかけていた場所』



『仮面』 伊岡瞬著 感想レビュー 仮面の下の秘密

  仮面 (角川文庫) ディレクシアを知る 初読みの作家さんでした。 ページ数は多いけどすぐに読み終えました。 グロ描写ありです。 あらすじ 読字障害というハンディキャップを抱えながらもアメリカ留学の後、情報番組を中心にメディアに露出する三条公彦(さんじょうきみひこ)。 知的で爽...