2023年10月17日火曜日

『昨日星を探した言い訳』河野裕著 感想・レビュー 君の嫌いな所、100個

 みんな平等の理想郷を求めて


緑の瞳と黒い瞳を持つ人間が存在する国で、総理大臣になりたい少女と気難しい少年2人の純愛もの。

ちょっとしたことで意地になったり、青春の甘酸っぱさを経験し、遠回りした恋愛を描く。


あらすじ


自分の声質が気に入らず、寡黙を選んだ坂口孝文(さかぐちたかふみ)は、全寮制の名門進学校、中高一貫校・制道院学園に入学。

そこでは寮が紫雲・青月・白雨(しうん・せいげつ・はくう)紅玉・黄苑・黒花(こうぎょく・おうえん・こっか)と6つに別れていた。

中等部2年、緑色の目を持ち、世界的に有名な映画監督、清寺時生(せいじときお)を養父にもつ茅森良子(かやもりりょうこ)が転入。

そんな彼女の夢は総理大臣になること。

幼少時代、少しだけ目に触れた清寺の幻の脚本「イルカの唄」に感化され、真の平等な社会を創ることを目標にしている。

まずは、制道院で生徒会長になることを目指す茅森だが、紅玉寮に入ったことで学校中から嫌われる。

そんな彼女と同じ図書委員になった坂口は、いつしか協力関係を結んでいく。



ネタバレ感想


河野裕さんの作品は階段島シリーズのみ読破。

❝「独りきりなら、歌うしかない」❞

文章表現がとても綺麗で、その言葉を使いたい為にストーリーを作ってるようなスタイルは変わってない。

意味は何となくニュアンスで理解しています。

倫理観にも触れていますが、深く考えたらよく分からない(笑)

タイトルは素敵です。

河野さんは、優等生タイプで意志が強く、ちょっとみんなから一目置かれてる女性が好みなのかな。

2人のメイン主人公が交互に語る形で描かれて、どっちの心情も深く描かれている。

好きだけど嫌いだという茅森と彼女に強く惹かれている坂口との意地の張り合いが見もの。

橋本先生と坂口の口論が印象的。

そこからの制道院学園の伝統行事、拝望会は感動的だった。

歩く距離や長い階段を想像したら参加したくないと思うが、しんどいだけでなく参加したからこそ分かる爽やかな感動が胸を打つ。

好きな人も苦手な人も同じ笑顔を向ける茅森は素晴らしい人物だと思うし、決して前に出ずに清掃員という組織を作り、徐々に人数を増やしていった坂口の手腕も凄いと思う。

でも、私はこの2人が現実にいたら苦手だろうなって気がした(笑)

八重樫、桜井、中川先生とは仲良くなれそう。

茅森を思ってしたことだけど、「イルカの唄」を隠した坂口は自分勝手だと思う。

作中にも触れているけど茅森の貴重な青春の思い出を灰色にしやがってと思った。

イルカに準えて周波数って言葉がやたら出てくるけど素敵だった。


登場人物

坂口孝文 …白雨寮。厳しい祖母に苦手意識を持つ。妹が2人いる。

茅森良子 …児童養護施設で育つ。緑の目を持つ。両親を知らない。

綿貫条吾(わたぬきじょうご) …坂口と同室。車いす。

八重樫明美(やえがしともみ) …緑の目を持つ。綿貫と仲が良い。

桜井真琴(さくらいまこと)  紅玉寮。坂口と小学校から同じ。坂口が昔好きだった相手。茅森を嫌う。

橋本先生 …歴史担当。制道院で人気のある教師。

中川先生 …司書教諭。坂口を気にかけてくれる。

原田祥子 …前副会長。紅玉寮に影響力を持つ。

月島渚  …茅森の実母。清寺映画に4本出演。

清寺時生 …制道院学園出身。映画監督。茅森の養父。



『昨日星を探した言い訳』私の評価は★3


ストーリー   ★★★☆☆  3
キャラの魅力  ★★☆☆☆  2
衝撃度     ★★☆☆☆  2
おすすめ    ★★★☆☆  3



2023年10月5日木曜日

『彼らは世界にはなればなれに立っている』太田愛著 感想・レビュー 歴史は繰り返す──現代の黙示録

 人間の浅はかさとは!?

時代設定皆無、国もどこか分からない。      

カイのイメージ

それでも、一言で感想を述べるなら心が抉られる。

主人公が章ごとに変わるストーリー。

ジャンルは多岐にわたり、差別された人々を描く。


あらすじ

〈はじまりの町〉で生まれた民は、みんな誇りを持っている。

その初等科に通う少年、トゥーレの母は、「羽虫」と呼ばれている。

母の作るドレスは、センスも良く人気があるが驚くほどの低賃金で働かされている。

誇り高き住人たちは、他所から来た人々を羽虫と蔑み、日常的に差別していた。

羽虫たちの住居イメージ

そして、町一番の金持ちの伯爵にみんな心酔していた。

豪華客船がやってきた日、トゥーレの母は姿を消す。

その事件をきっかけに、町では悪意の連鎖が起き始めた。


ネタバレ感想

この本を読み始めた時、どこか遠い国のおとぎ話かなといった感じで中々ストーリーに入り込めなかった。

語り手がマリに変わると一気に引き込まれ、魔術師の章では涙がこぼれた。

トゥーレがクッキーの空箱に隠した一枚の写真から紐解いていく。


登場人物はざっとこんな感じ。

トゥーレ …トラック運転手の父、羽虫の母を持つ。

カイ …判事の息子。マリを慕う優等生。トゥーレの友人。

コンテッサ …伯爵が連れてきた美貌の女性。

マリ …映画館の受付嬢。褐色の肌を持つ。雪を見たことがあると言ったせいで嘘つき呼ばわりされる。出生に秘密がある。

ハットラ …羽虫の期待の星。赤毛。足が速く中央の学校に推薦される。

怪力 …伯爵が所有する博物館の監視員。大きな体躯の持ち主。

葉巻屋 …吸殻を拾い、葉巻を作って売っている。情報収集に長けている。父も葉巻職人。弟子を持つ。文字が読める。

魔術師 …成功した試しがない魔術を披露する。禁書をトゥーレに貸し出し、マリとも親しい。


羽虫に対して人間扱いをしない、どこまでも非情な住民たち。

荒廃した町

トゥーレの母(アレンカ)とマリに起こった出来事は、えげつなく、酷くて辛く苦しい。

昔のような設定で描かれているけど現代にも起こり得そうで寒気がした。

魔術師の章で全てが解き明かされていくが、カイとトゥーレの姿に悲しくて涙が出た。

上記の登場人物たちは何も悪いことをしていないのに。

町の悪意の犠牲になってしまう。

どうか、こんな世界はなくなってほしい。

好きか嫌いかの2択なら、私はこのストーリーは嫌い。

だけど、読むべき作品だと思う。


『彼らは世界にはなればなれに立っている』私の評価は★3


ストーリー  ★★★★☆  4
キャラの魅力 ★★★☆☆  3
衝撃度    ★★★★☆  4
おすすめ   ★★★☆☆  3



2023年8月23日水曜日

『向日葵を手折る』彩坂美月 感想・レビュー 田舎の都市伝説に絡めた青春ミステリ

 みんなが噂する向日葵男とは?

『向日葵を手折る』は、情景描写が素晴らしく、堪えきれず何度も涙をこぼした。

タイトルも素敵。

連続する不穏な事件と共に描かれる淡い恋。

限界集落のコミュニティは怖くもあり、羨ましくもある。

夏祭りの終わり

巡る季節の移り変わりは臨場感たっぷり。

都会育ちの主人公ならではの雪に対する心情がすごい理解できた。

私の大好きな小説、ベスト3に食い込む作品だ。






あらすじ


父の急死で、祖母を頼り、母と共に山形の集落に引っ越した小学校6年生の高橋みのり。

そこで強烈な印象を放つ2人の同級生と出会う。

夏、集落のみんな総出で行われる伝統行事「向日葵流し」。

その為に植えられていた向日葵の花が、何者かによって全て切り落とされる。

同級生たちは怖がり、「向日葵男のしわざだ」とつぶやく。  
立ち入り禁止の沼とは?


そして、みのりの周りで色んな出来事が起きる。

犯人は一体。

そして向日葵男とは?

集落で過ごした彼女の忘れられない4年間を描く切ない青春ミステリ。


ネタバレ感想


隼人(はやと)と怜(れい)、対照的な2人少年の存在が良かった。

粗野で乱暴者の隼人、穏やかで笑みを絶やさない美少年の玲。

2人の絆にヤキモチするみのりの心情も良かった。

みのりは、不気味な向日葵男に怯える同級生たちの傍ら、沼へ足を運んだり、図書館へ通ったりと真相を究明しようとする。

それがメインストーリーかと思いきや、青春要素が多め。

ハナの事件はすごく悲しく、思い出しても泣ける。

自生の果実を捥ぎ取り、2人で分けて食べる何ともない行為が、思春期の到来で何となく戸惑ってしまう描写も良かった。

中学生になった隼人の成長ぶりにドキッとした。

反対に心を閉ざすようになった玲との対比も良かった。

ラストにかけて分かる真相にも涙が溢れてくる。

みのりと誰がくっつくのかちゃんと描かれていないのも良かった。

名前が一緒なので余計感情移入してしまったけど、私なら隼人かな。

もう一度読み返したい小説。

大好きです。


『向日葵を手折る』私の評価は★5


ストーリー     ★★★★★   5
キャラの魅力   ★★★★☆   4
衝撃度      ★★★★☆   4
おすすめ      ★★★★★   5












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