2024年5月13日月曜日

『震える天秤』染井為人著 感想・レビュー 暴いてはいけない村の秘密

震える天秤(角川文庫)

己の正義に従うか、良心か

 フリーライターの俊藤律(しゅんどうりつ)が主役。

『海神』(わだつみ)では、脇キャラとして登場。                       

村落のイメージ
染井さんの作品は、『悪い夏』 『正体』と映像化が決まっている。

この『震える天秤』も映像化しそう。

社会問題となっている高齢者ドライバーに焦点を充て、法の問題にも触れている社会派ミステリ。


あらすじ

ある日、高齢男性の運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員を轢き殺す大事故が発生。

事故前後の記憶が定かではない加害者の老人、落井正三(おちいしょうぞう)は、年金暮らしで認知症だと思われた。

事故を取材するライターの俊藤律は、落井が住んでいた埜ヶ谷村(のがだにむら)を訪ねる。

取材に対応してくれた人物たちは、口をそろえて加害者が認知症だと話す。

律は、この村はどこかおかしいと感じるがいまいち決め手に欠けていた。

内方七海(うちかたななみ)の姿を見るまでは。

事故の唯一の目撃者である七海と加害者が同じ埜ヶ谷村出身。

これは偶然なのか。

やがて律はこの事故の真相に辿り着く。


ネタバレ感想

良心の天秤がどちらに触れるか。

私だったら律と同じ選択をしたと思う。

死んでいい人間などいないというのは建前で、反省もしない本当にどうしようもない悪人はいる。

『震える天秤』に登場する石橋昇流(いしばしのぼる)がそんな人物だ。

最初は七海の行動に理解できなかったが、彼を知るにつれて彼女がなぜ律に冷たい態度を取るのか分かった。

七海は噂を鵜呑みにせず、自身で石橋昇流の人となりを判断するなど非常に聡明な少女だった。

昇流の父である宏(ひろし)がはっきりどうなったか描かれてないけど、彼はおそらく。

ずっと善人で生きてきた人が悪人のせいで人生が変わってしまうなんて許せない。

たた、関(せき)がもっとしっかりしていたらなあと思わずにはいられない。

一見関係がない出来事がどんどん繋がっていくのが面白かったし、衝撃だった。

律のキャラを見て、マスコミの取材ってしつこくてこんな感じなんだなあと思った。

律は優しい人物だったんだけどね。

相変わらず人間描写、風景描写、心理描写がうまいと思った染井作品でした。

タイトルが秀逸。


『震える天秤』私の評価は★4

ストーリー  ★★★★☆  4
衝撃度    ★★★★☆  4
キャラの魅力 ★★★☆☆  3
おすすめ   ★★★★☆  4











2024年5月6日月曜日

『イデアの再臨』五条紀夫著 感想・レビュー ギミック小説

イデアの再臨(新潮文庫)

かなり戸惑うメタミステリ

カバーデザインは『クローズドサスペンスヘブン』と同じ、川谷康久(かわたにやすひさ)さんで素敵。

前作が面白かったので、今回も期待。

なんだこりゃ小説でした。

新しいことにチャレンジした小説って感じ。

こちらも『世界でいちばん透きとおった物語』同様、映像化不可能。

ただし、二番煎じとかじゃないです断じて。


あらすじ

朝起きたら、壁に四角い穴が空いていた。

あるべきものがない?

母は何事もなかったかのように過ごしている。

学校に行っても、そこかしこ穴があるのにみんな通常通りだ。


世界から■■が消えているのに誰も異変に気がつかない。

頭を抱える僕をじっと見つめる金髪の同級生。

「ここは小説の中の世界。俺たちは登場人物だ」

次々と消える言葉や物、世界がどんどんおかしな方向へ進む中、僕たちは犯人の正体を推理する。

映像化不可能作品、メタ学園ミステリー。


ネタバレ感想

どんどん空白になっていく単語と共に、小説の世界でもそのものが消えていく。

さっきまであったものが消えておかしいと気付いた人物は、ページを戻れたりとかなどのスキルを持つ。

10ページくらい読んだときに、うーん私はこの独特なノリのストーリーにハマれないかもと思った。

会話劇は少し面白いと思う。

けど、なんとか頑張ってラストまで読まないととなぞの使命感で読む作品だった。

犯人は何の目的でこんなことを、そしてどう終わらすんだろうという二つの答えを知る為だけに読んだ。

まあ一応ハッピーエンドなので後味は悪くない。


『イデアの再臨』私の評価は★1

ストーリー  ★★☆☆☆  2
キャラの魅力 ★☆☆☆☆  1
衝撃度    ★★★☆☆  3
おすすめ   ★☆☆☆☆  1

2024年5月1日水曜日

『人獣細工』小林泰三著 感想・レビュー 人と獣の境界線

人獣細工(角川ホラー文庫)


人間の証明とは


❝パッチワークガール。そう。私は継ぎはぎ娘。❞


表題作「人獣細工」の他、「吸血狩り」「本」の3編からなる作品集。


デッドマン・ワンダーランド』の作者さんによる書き下ろしカバーイラストに惹かれて購入。

グロ描写ありのホラー。

想像力豊かな人は注意です(笑)

ブタの臓器を全身に移植された娘の話。

たった一つだけ、自分だと分かる印を残して。


あらすじ


先天性の病気が理由で、生後まもなくからブタの臓器を全身に移植され続けてきた少女・夕霞(ゆか)。

移植を担当していたのは彼女の父だった。

父の死後、膨大な移植記録を見た彼女は、自身の存在に疑問を覚える。

私は父の実験動物だったのだろうか。

ほとんどの器官をブタから移植されていた夕霞は、人間である証明を得るために実験記録を漁る日々。

心配して訪ねてきた友人に罵倒してしまう程おかしくなっていく。

やがて彼女が辿り着いた真実とは。


ネタバレ感想


小林泰三さんの文章は少し読みにくい印象。

メルヘン殺しシリーズは好きなんだけどね。

『玩具修理者』は、グロ描写がきつすぎて吐き気がした。

『人獣細工』は、前者がグロ10レベルだとすると、6ぐらいかな。

3篇目の「本」の方が描写がキツイ。

「人獣細工」と「本」は、専門的用語がたくさん出て来るけど、読み解く力が必要なのは「本」。

全ての臓器がブタならば、何をもって人間と言えるのか。

夕霞への唯一の救いは良い友人を持ったこと。

❝法律はある程度、人間の行動を抑制できるが、完全ではない❞

この言葉はなるほどと思った。

最終的にその人間のモラルに左右されるんだな。

彼女が知った真実は戦慄が走る。

そっちなのかと愕然。

2篇目の「吸血狩り」はライトな感じで読みやすいが不安が残る。

「本」は、まさに狂気の世界。

ピアノ辺りから描写がきつく頭がおかしくなりそうだった。


『人獣細工』私の評価は★2


ストーリー  ★★★☆☆ 3
衝撃度    ★★★★★ 5
キャラの魅力 ★☆☆☆☆ 1
おすすめ   ★★★☆☆ 3








『仮面』 伊岡瞬著 感想レビュー 仮面の下の秘密

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