2024年5月26日日曜日

『ゴールデンタイムの消費期限』斜線堂有紀著 感想・レビュー 才能の枯渇

                      ゴールデンタイムの消費期限(角川文庫)


若き天才のリサイクル計画

これまで斜線堂有紀さんの作品は、『私が大好きな小説家を殺すまで』 『恋に至る病』などの共依存系しか読んだことなかった。(ちなみにどちらの作品も大好きです)

だから何か起きそうって思ったし、クローズドサークルのミステリ作品かなと先入観を持ったけど違ってた。

恋愛要素ほぼなし。

世間から見放されつつある元天才たちが、それぞれ自身を見つめ、必死に努力するキャラたちの交差を描いている瑞々しい作品。

読後感も良い近未来青春ストーリー。


あらすじ


小学生で小説家デビューし、もてはやされた綴喜文彰(つづきふみあき)は、4年も新作を発表出来ていない。

焦燥感に駆られ、将来を悲観し始めた高校三年生の春、綴喜は編集者から『レミントン・プロジェクト』への参加を打診される。

綴喜が連れていかれた山奥の巨大な施設は、国が出資し、若き天才たちを集め交流を図る11日間のプロジェクト。

そこに料理人、ヴァイオリニスト、映画監督、日本画家、棋士の、若き五人の天才たちがいた。

全員、一度は天才だともてはやされたものの、徐々に前線から脱落していった者たちだった。

そして、このプロジェクトとは、人工知能「レミントン」とのセッションを通じた自分たちの「リサイクル計画」だった。


登場人物


綴喜文彰 天才小説家。

真取智之(まとりともゆき)天才料理人。綴喜と同じ「ギフテッドチルドレン」出演者。

秋笠奏子(あきがさかなこ)国内の賞総なめのヴァイオリン奏者。

秒島宗哉(びょうしまそうや)帝都藝大三年。専攻日本画。

御堂将道(みどうまさみち)デビュー戦から二十七戦無敗の最年少棋士。

凪寺エミ(なぎでらえみ) 18歳。映画監督。「世界のナギデラ」の一人娘。



ネタバレ感想


全員、元天才。

飽きられたら終わり。

プレッシャー。

私は凡人なので天才側の気持ちは今まで知る由もなかったけれど、一度結果を出した人間はこんな悩みがあるのかと分かった。

そこで、各分野の元天才を集めたレミントン計画。

❝レミントンは四十六万冊の小説を学習し、ベストセラーになる小説の展開を把握❞

1日1冊小説を読んでいる綴喜にも驚きだが、レミントンはおよそ人間が人生何周したって追いつかないくらいの気が遠くなるような数字の本を簡単に読破してしまう。

レミントンの言うとおりに書けばベストセラー間違いなし。

もう、これは現実に起きているかもしれない。

AIのイラストが普通に出回っているし。

レミントンに反発する人物、すんなり受け入れる人物、悩む人物、それぞれ意見をぶつけながら、11日間で人生を見つめ直していく。

殺人事件が起きたり、好きになり過ぎて苦しいとかそんな展開はないけれど、ラストまで面白く読めた。

それぞれの活躍がもっと見たいし交流も見たい。

私は秒島さんが良かった。

意外だったのが綴喜の従兄弟と秋笠。

凪ちゃんの父親と秋笠の母親には腹が立った。

後者は、私が今まで読んだ斜線堂さんの作品に出て来そうな母親像。



『ゴールデンタイムの消費期限』私の評価は★3


ストーリー   ★★★☆☆  3
キャラの魅力  ★★★★☆  4
衝撃度     ★★★☆☆  3
おすすめ    ★★★☆☆  3








2024年5月17日金曜日

『剝製の街 近森晃平と殺人鬼』樹島千草(きじまちぐさ)著 感想・レビュー 人の根底にあるもの


         剝製の街 近森晃平と殺人鬼(集英社文庫)


耽美で禍々しい芸術

完全にカバー買いです。

この作品の剥製のイメージは蠟人形っぽい感じ

装丁は西村弘美さん。

イラストレーション/人さらいさん

とありましが、「人さらいさん」は、調べても分からなかったです。

タイトルがちょっとダサい感じがしますが、イラストに惹かれた。

過去の事件を蒸し返すような事件が主人公の周りで起きてしまう。

過去も現在も、犯人の掌で踊らされていただけなのか。


あらすじ
ミノタウロス


失踪した人が半年後に剥製として発見される怪事件が3件起きた。

3件目の被害者の妻である秋月瑠華(あきづきるか)が、小さな探偵事務所を営む近森晃平(ちかもりこうへい)へ紛失したスマホを見つけてほしいと依頼。

そのことがきっかけに、晃平は思い出したくもない過去の事件との関連を発見していく。

晃平は、11年前に起きた「キャトル事件」で両親を殺害された被害者遺族であった。

それは、死体から臓器の一部を取り出し、手のひらに乗せるという常軌を逸した猟奇的事件だった。

だが犯人は獄中自殺していたはずであった。

ネタバレ感想


主人公の幼馴染である美貌の青年慧(けい)は、顔に似合わず毒を吐く。

美貌すぎるゆえに、周りで争いごとが起きてしまうという人物。

もし、映像化するとしたら慧は、岡田将生さんが似合いそう。

カバー絵は、慧だろうな。

主人公は実際ミノタウロスの犯人を見ているわけですが、あんなもん見たら腰抜かす。

加害者より被害者の人権が守られない世の中本当にどうかしてる。

作品で登場するミラーハウスですが、私は遊園地のアトラクションで迷子になって出れなくなったことがあります(笑)

右も左も分からないし、天井も床も鏡、鏡、鏡で軽くパニック状態になりました。

人形劇の開催場所が、ミラーハウス。

それだけで禍々しさが伝わる。

なぜ、同じ町で起きた3件の剥製事件の証拠が全然見つからないのか。

ミラーハウスなんか最初の方に調べると思うんだけどな。

ましてや2階なんかも。

犯人には協力者がいる──と晃平は推理。

いや、警察もすぐ分かるやろ(笑)

わりと序盤から誰が犯人かすぐ分かった。

協力者も。

でも、すっきりしない終わり方。

なぜ、被害者遺族だったはずの犯人は闇落ちしたのか、その過程をもっと知りたい。

栗原(くりはら)は、自分が特別だと思い込んでいる中途半端なサイコパス。

3人目の被害者もなぜ選ばれたのかよく分からない。

スマホが手に入ったから?

●●は、どうやってキャトル事件の犯人を操ったのか、そして、剥製魔が見つかるようなアドバイスを晃平にしたのかその心理が分からない。

晃平の様子を観察したいという単純な遊び心なのかな。

にしても、過去彼の側にいて彼の心を救ったのは事実だし、色々分からないことだらけ。

完全に●●はサイコパスなんだろうけど、彼がどう思ってなぜそんな行動に出ていたのか、もっとはっきり描いて欲しかったなー。

その辺描き切れていれば、文句なしに面白い作品でした。


『剝製の街 近森晃平と殺人鬼』私の評価は★3


ストーリー  ★★★☆☆  3
キャラの魅力 ★★★☆☆  3
衝撃度    ★★★☆☆  3
おすすめ   ★★★☆☆  3










2024年5月13日月曜日

『震える天秤』染井為人著 感想・レビュー 暴いてはいけない村の秘密

震える天秤(角川文庫)

己の正義に従うか、良心か

 フリーライターの俊藤律(しゅんどうりつ)が主役。

『海神』(わだつみ)では、脇キャラとして登場。                       

村落のイメージ
染井さんの作品は、『悪い夏』 『正体』と映像化が決まっている。

この『震える天秤』も映像化しそう。

社会問題となっている高齢者ドライバーに焦点を充て、法の問題にも触れている社会派ミステリ。


あらすじ

ある日、高齢男性の運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員を轢き殺す大事故が発生。

事故前後の記憶が定かではない加害者の老人、落井正三(おちいしょうぞう)は、年金暮らしで認知症だと思われた。

事故を取材するライターの俊藤律は、落井が住んでいた埜ヶ谷村(のがだにむら)を訪ねる。

取材に対応してくれた人物たちは、口をそろえて加害者が認知症だと話す。

律は、この村はどこかおかしいと感じるがいまいち決め手に欠けていた。

内方七海(うちかたななみ)の姿を見るまでは。

事故の唯一の目撃者である七海と加害者が同じ埜ヶ谷村出身。

これは偶然なのか。

やがて律はこの事故の真相に辿り着く。


ネタバレ感想

良心の天秤がどちらに触れるか。

私だったら律と同じ選択をしたと思う。

死んでいい人間などいないというのは建前で、反省もしない本当にどうしようもない悪人はいる。

『震える天秤』に登場する石橋昇流(いしばしのぼる)がそんな人物だ。

最初は七海の行動に理解できなかったが、彼を知るにつれて彼女がなぜ律に冷たい態度を取るのか分かった。

七海は噂を鵜呑みにせず、自身で石橋昇流の人となりを判断するなど非常に聡明な少女だった。

昇流の父である宏(ひろし)がはっきりどうなったか描かれてないけど、彼はおそらく。

ずっと善人で生きてきた人が悪人のせいで人生が変わってしまうなんて許せない。

たた、関(せき)がもっとしっかりしていたらなあと思わずにはいられない。

一見関係がない出来事がどんどん繋がっていくのが面白かったし、衝撃だった。

律のキャラを見て、マスコミの取材ってしつこくてこんな感じなんだなあと思った。

律は優しい人物だったんだけどね。

相変わらず人間描写、風景描写、心理描写がうまいと思った染井作品でした。

タイトルが秀逸。


『震える天秤』私の評価は★4

ストーリー  ★★★★☆  4
衝撃度    ★★★★☆  4
キャラの魅力 ★★★☆☆  3
おすすめ   ★★★★☆  4











2024年5月6日月曜日

『イデアの再臨』五条紀夫著 感想・レビュー ギミック小説

イデアの再臨(新潮文庫)

かなり戸惑うメタミステリ

カバーデザインは『クローズドサスペンスヘブン』と同じ、川谷康久(かわたにやすひさ)さんで素敵。

前作が面白かったので、今回も期待。

なんだこりゃ小説でした。

新しいことにチャレンジした小説って感じ。

こちらも『世界でいちばん透きとおった物語』同様、映像化不可能。

ただし、二番煎じとかじゃないです断じて。


あらすじ

朝起きたら、壁に四角い穴が空いていた。

あるべきものがない?

母は何事もなかったかのように過ごしている。

学校に行っても、そこかしこ穴があるのにみんな通常通りだ。


世界から■■が消えているのに誰も異変に気がつかない。

頭を抱える僕をじっと見つめる金髪の同級生。

「ここは小説の中の世界。俺たちは登場人物だ」

次々と消える言葉や物、世界がどんどんおかしな方向へ進む中、僕たちは犯人の正体を推理する。

映像化不可能作品、メタ学園ミステリー。


ネタバレ感想

どんどん空白になっていく単語と共に、小説の世界でもそのものが消えていく。

さっきまであったものが消えておかしいと気付いた人物は、ページを戻れたりとかなどのスキルを持つ。

10ページくらい読んだときに、うーん私はこの独特なノリのストーリーにハマれないかもと思った。

会話劇は少し面白いと思う。

けど、なんとか頑張ってラストまで読まないととなぞの使命感で読む作品だった。

犯人は何の目的でこんなことを、そしてどう終わらすんだろうという二つの答えを知る為だけに読んだ。

まあ一応ハッピーエンドなので後味は悪くない。


『イデアの再臨』私の評価は★1

ストーリー  ★★☆☆☆  2
キャラの魅力 ★☆☆☆☆  1
衝撃度    ★★★☆☆  3
おすすめ   ★☆☆☆☆  1

2024年5月1日水曜日

『人獣細工』小林泰三著 感想・レビュー 人と獣の境界線

人獣細工(角川ホラー文庫)


人間の証明とは


❝パッチワークガール。そう。私は継ぎはぎ娘。❞


表題作「人獣細工」の他、「吸血狩り」「本」の3編からなる作品集。


デッドマン・ワンダーランド』の作者さんによる書き下ろしカバーイラストに惹かれて購入。

グロ描写ありのホラー。

想像力豊かな人は注意です(笑)

ブタの臓器を全身に移植された娘の話。

たった一つだけ、自分だと分かる印を残して。


あらすじ


先天性の病気が理由で、生後まもなくからブタの臓器を全身に移植され続けてきた少女・夕霞(ゆか)。

移植を担当していたのは彼女の父だった。

父の死後、膨大な移植記録を見た彼女は、自身の存在に疑問を覚える。

私は父の実験動物だったのだろうか。

ほとんどの器官をブタから移植されていた夕霞は、人間である証明を得るために実験記録を漁る日々。

心配して訪ねてきた友人に罵倒してしまう程おかしくなっていく。

やがて彼女が辿り着いた真実とは。


ネタバレ感想


小林泰三さんの文章は少し読みにくい印象。

メルヘン殺しシリーズは好きなんだけどね。

『玩具修理者』は、グロ描写がきつすぎて吐き気がした。

『人獣細工』は、前者がグロ10レベルだとすると、6ぐらいかな。

3篇目の「本」の方が描写がキツイ。

「人獣細工」と「本」は、専門的用語がたくさん出て来るけど、読み解く力が必要なのは「本」。

全ての臓器がブタならば、何をもって人間と言えるのか。

夕霞への唯一の救いは良い友人を持ったこと。

❝法律はある程度、人間の行動を抑制できるが、完全ではない❞

この言葉はなるほどと思った。

最終的にその人間のモラルに左右されるんだな。

彼女が知った真実は戦慄が走る。

そっちなのかと愕然。

2篇目の「吸血狩り」はライトな感じで読みやすいが不安が残る。

「本」は、まさに狂気の世界。

ピアノ辺りから描写がきつく頭がおかしくなりそうだった。


『人獣細工』私の評価は★2


ストーリー  ★★★☆☆ 3
衝撃度    ★★★★★ 5
キャラの魅力 ★☆☆☆☆ 1
おすすめ   ★★★☆☆ 3








『仮面』 伊岡瞬著 感想レビュー 仮面の下の秘密

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