2024年9月9日月曜日

『罪びとの手』天祢涼著 感想・レビュー タイムリミットは96時間、4つの謎を解き明かせ

罪びとの手 (角川文庫)  


家族愛か復讐か

AID(配偶者間人工授精)に触れている作品。


天祢涼(あまねりょう)さん、初読みの作家さん。

「殺したか」の呟きにどんな意味が?

伏線と疑惑が絡むミステリ小説。


あらすじ

川崎区の廃ビルで身許不明の中年男性の遺体が酔っ払いたちに発見される。

事件性なしと早々に判断されたが、刑事の滝沢圭(たきざわけい)は引っかかりを覚えた。

死亡推定日時と遺品の壊れた腕時計が示す日付とのズレに事件性を疑っていた。

ゴリ押しで解剖に回すが、そこでも事件性なしと言われる。

廃ビルイメージ

そこに、遺体を引き取りに来た葬儀屋・御木本悠司(みきもとゆうじ)が、自分の父親だと申し出る。

さらに、遺体を目にした悠司が「殺したか」と呟いたいう証言を得た滝沢は、奇妙な偶然で片付けるには説明がつかないと踏む。

果たして本当にその遺体は悠司の父親なのか。


ネタバレ感想

読みやすい文章だった。

キャラの印象は、悠司が微笑みを絶やさないキレ者。

ウェディングプランナーの兄の昇一(しょういち)はおしゃれだけど、バカそうに見えた。

長岡姫乃(ながおかひめの)はクールビューティで女性受けが良いキャラだと思う。

悠司が黒幕?という疑惑に駆られ、刑事、昇一、中守(なかもり)、姫乃視点でストーリーは進む。

いやーそのオチはちょっと納得いかないなあが正直な感想。

謎が分かるとちょっと騙された感あってうーん、それはないわー。

何度も違うって書いてたよね(笑)

でも途中まではめっちゃ良かった。

悠司と姫乃と伴藤(ばんどう)さんでずっと御木本葬儀社を守ってほしい。


『罪びとの手』私の評価は★3

ストーリー ★★★☆☆  3

キャラの魅力★★★☆☆  3

衝撃度   ★★☆☆☆  2

おすすめ  ★★★☆☆  3

2024年9月1日日曜日

『方舟』 夕木春央著 感想・レビュー 思考実験「トロッコ問題」を彷彿

方舟 (講談社文庫)



 帯の煽り文句は本当だった

序盤はよくあるクローズドサークル。

連続して起こる殺人事件、そして犯人の目的が全く分からない。

なので、「トロッコ問題」のようにどうやったら生き残れるかを模索しながら読んでいく。


あらすじ


柊一(しゅういち)は、大学時代のサークルの友人たちと、従兄の翔太郎(しょうたろう)と共に山奥の地下建築を訪れる。

道に迷ったせいで、地下建築で一夜を過ごす羽目になった柊一たち。

同じように迷い込んだ矢崎一家の三人も地下建築に合流する。
ノアの箱舟

だが、翌朝に起こった地震のせいで、扉が岩で完全にふさがれてしまう。

さらに地盤に異変が起き、水が侵食し始めた。

このままでは地下建築は水没してしまう。

そんな矢先に殺人事件が発生。

❝誰か一人を犠牲にすれば脱出できる。

生贄には、その犯人がなるべきだ。

ーー犯人以外の全員が、そう思った。❞

水没までのタイムリミットは約1週間。

それまでに、殺人犯を見つけなければならない。

だが、第二の殺人事件までもが発生してしまう。






地下建築(廃墟)の入口イメージ

登場人物

・越野柊一(こしの)…………………主人公の僕。システムエンジニア。

・篠田翔太郎(しのだ)………………柊一の従兄弟。親の遺産で生活。世渡り上手で頭が良い。

── サークル仲間 ──

・西村裕哉(にしむらゆうや)………アパレル勤務。お調子者。
・絲山隆平(いとやまりゅうへい)…ジムのインストラクター。柊一に敵意を持っている。
・絲山麻衣(まい)……………………幼稚園の先生。隆平の妻。
・野内さやか(のうちさやか)………ヨガ教室勤務。花を慕っている。
・高津花(たかつはな)………………事務員。一人称は「うち」

── 矢崎家 ──
・幸太郎(こうたろう)…………電気工事士。
・弘子(ひろこ)………………………幸太郎の妻。
・隼人(はやと)………………………高校一年生。やや幼い印象。

ネタバレ感想

探偵役の翔太郎、助手役の柊一が証拠を集め、動機を考察し、みんなを食堂に集めて推理を披露する。

ここまではよくある話だし、意外な人物が犯人というのは想定内。

そこまで面白いとは思わなかった。

人物描写も薄いし?

人と人との繋がりの描写も深みがない。

例えば、この集まりに従兄弟連れて来るか?と疑問。

矢崎一家同様に、翔太郎だって胡散臭い。

隆平と麻衣がなぜ結婚したのか分からないし、柊一が彼女に惹かれるのがよく分かんないし。

だが、エピローグで完全に打ちのめされた。

こんなことってある?

ネタバレ本当に注意↓↓




探偵役が敗北するなんて

読み返すと犯人のセリフが違った意味に聞こえる。

サイコパス過ぎるやろ。

翔太郎は完全にピエロ。

どうすれば助かったんだろう。

何でタイムリミット一週間まで待ってたんだろう。

さっさと何人かで脱出して助け呼んだらいいのにっていう疑問はあるけれど、ラストの衝撃はきっと忘れられない一冊になる。

実写化しそうだな。

『方舟』私の評価は★4


ストーリー   ★★★☆☆  3
キャラの魅力  ★★☆☆☆  2
衝撃度     ★★★★★  5
おすすめ    ★★★★☆  4





2024年8月20日火曜日

『滅茶苦茶』染井為人著 感想・レビュー こんなはずじゃなかった!

 滅茶苦茶 (講談社文庫 )

付き合う人物は見極めろ


❝予測不能の展開、予想外の読後感

中毒者続出の絶叫系転落ミステリー!❞

ハードル上げすぎなコメント大丈夫?と思ったけどその通り!

美世子イメージ

やっぱり染井作品は面白い。

『正体』しか読んだことない人は驚くかも(笑)


あらすじ


2020年、マスク必須のコロナ禍の日本。

リモートワークを余儀なくされたアラフォーの美世子は、マッチングアプリで出会った年下の男性に惹かれる。

進学校に通う礼央は、小学校時代の級友と再会し、同級生と距離を置く。
礼央イメージ

三人の子持ちの茂一は、ラブホテルの経営に給付金が下りず絶望する。

そして、人生で関わるはずもない三人の人生が交差する。

登場人物

・今井美世子(いまいみよこ)…… 30代後半。仕事人間。美人。親友の薦めでマッチングアプリを始める。

・二宮礼央(にのみやれお)……… 県内随一の進学校に通う。通学電車で幼馴染と偶然再会する。

・戸村茂一(とむらもいち)……… ラブホテルを3軒経営するが業績悪化。スナック『ルージュ』を営む恵(めぐみ)に詐欺を持ちかけられる。


ネタバレ感想

染井さんは相変わらずクズっぷりの描き方がすごい。

茂一イメージ

ストーリー構成としては『悪い夏』に似てるかな。

3人とも本当にこんなはずじゃなかったという転落人生。

着地点が分からず転がっていく。

この作品を読んで、付き合う人によって人生は180度変わるんだなと悟った。

それとある程度の教養は必要。

3人が奇跡の交差をしたときの会話とシチュエーションに思わず吹き出しました。

状況がひっ迫してるのに何かおかしくて。

芽衣(めい)と恵さんがしつこくて怖かった。

2人はちゃんと制裁を食らったんだろうか。

美世子さんだけ自業自得ではなく、ハズレくじを引いてしまった感じ。

こんな女性が国際ロマンス詐欺に引っかかってしまうんだなあ。

彼女は立ち直りも早そうなのでそこは良かったけど。

恋はもういいやって感じで、独身のまま礼央の世話をずっと焼いてくれそう(笑)

礼央は何度も聖也(せいや)たちと離れるチャンスあったのになあ。

持続化給付金の定義の曖昧さよ。

でも読後感は良かった。

鍋パ定期的にしてほしい。

タイトル通りのストーリーで滅茶苦茶でした(笑)

実写化向きかも。


『滅茶苦茶』私の評価は★4

ストーリー  ★★★★☆ 4

キャラの魅力 ★★★★☆ 4

衝撃度    ★★★★★ 5

おすすめ   ★★★★☆ 4

2024年8月13日火曜日

『貴方のために綴る18の物語』 岡崎琢磨著 感想・レビュー 奇妙な仕事

貴方のために綴る18の物語 (祥伝社文庫 ) 


あしながおじさん?

ある日、老紳士から依頼された仕事は、1日1話読むだけで総額143万円との胡散臭い内容。

この仕事の本来の目的にせまる恋愛ミステリ

18本の短編を読み進めていくうちに、心はかき乱されていく。




あらすじ

駅のホームで見知らぬ老紳士から声をかけられた美織(みおり)は、思い出のレトロな喫茶店で奇妙な依頼を受ける。

それは、1日1話、謎の人物が執筆した18本の短編を読み感想を書くこと。

それだけで報酬は破格の143万円。

詐欺だと疑う美織だが、毎日届く短編に美織は没頭し始める。

この仕事の真の目的とは?


ネタバレ感想

主人公の美織は、何かに思い悩んでいるようで性格も暗くじめっとした印象を受けた。

後に理由は分かるんだけど。

短編はどれもそれなりに面白く、様々な恋愛模様が描かれている。

ほっこりするお話は少なく、どちらかといえばクソキャラが多め。

星新一さんのショートショートまではいかないが、どんでん返しもあって良かった。

彼女が書いた感想は最初共感できるのも多かったのに、3週目から乱雑すぎる。

すぐ自殺しようとする美織にはうーん。

立ち直ったとは思えないし、本当に前を向いていけるかなとこれからも心配ではある。


『貴方のために綴る18の物語』私の評価は★2

ストーリー  ★★★☆☆ 3

キャラの魅力 ★★☆☆☆ 2

衝撃度    ★★☆☆☆ 2

おすすめ   ★★★☆☆ 3

2024年8月5日月曜日

『みんな蛍を殺したかった』木爾チレン (きな)著 感想・レビュー 誰も幸せになれない

 『みんな蛍を殺したかった 』(二見文庫 )

❝私を殺してくれて、ありがとう❞

このストーリーのキャラたちではどんなルートを選択してもバッドエンドになってしまうだろう。

冒頭の未送信のメールに衝撃を受け、なぜそんなメッセを打ったのか答えを知りたくなる。

女子の嫌な部分を見事に描いている作品。



あらすじ

美しい少女・蛍が線路に身を投じる。

京都の偏差値が低い高校に通うオタク女子三人。

もちろんスクールカースト底辺に属し、生物部に籍を置く。

そんなある日、東京から美少女・蛍が転校してきた。彼女はなぜか自分もオタクだと宣言し、生物部に入部してくる。

蛍とそれぞれ絆を深めていく三人だが、事態はあらぬ方向へと進んでいく。


登場人物

七瀬蛍(ななせほたる)……二次元から飛び出したかのような美貌の持ち主。

大川桜(おおかわさくら)…オンラインゲーム『魔法世界』(まじかるわーるど)にハマるボクっ子。アニメ声。

五十嵐雪(いがらしゆき)…裕福な家庭で育つが、母の愛に飢えている。クラスメイトの金づる。

猫井栞(ねこいしおり)……母は美人で有名人。顔の火傷のせいで筆談。小説を書いている。

リイ君 ………………………『魔法世界』での桜(ナデシコ)の恋人。

アロワナ ……………………生物部にいる古代魚。

デュビア ……………………ググると後悔します(笑) 蛍が育てている虫。


ネタバレ感想

蛍に裏がありそうと思いながら読んだけど、やっぱりそうだった(笑)

藤高さんは、生まれたての赤ちゃんが六花に見えてしまうぐらい精神を病んでしまったんだろうな。

ただ、そんな偶然ある?っていう狭い世界だった。

誰か一人くらいハッピーエンドにしてあげて。

オタクはみんなブスではないと思うし、性格悪いという設定はどうだろう。

蛍の勝手な復讐心で、歯車が狂っていくし歪みすぎ。

復讐する相手は違うのにね。

そして母親の愛情の注ぎ方で子供は変わってしまうだなと。

桜と栞の母親は酷かったし、父親も尻に敷かれすぎて頼りない。

唯一綺麗な心の持ち主だった栞は、母の世話なんかしなくて良いのにと思った。

彼女は蛍の我がままも受け入れたし。

兄弟間で容姿レベルが違いすぎるのが3組もあるなどツッコミどころもあるが、ドロドロとしていて面白かった。

読後感は良くないけど深夜枠で実写化しそう。


『みんな蛍を殺したかった』私の評価は★2

ストーリー  ★★★☆☆ 3

キャラの魅力 ★★☆☆☆ 2

衝撃度    ★★★☆☆ 3

おすすめ   ★★★☆☆ 3


2024年8月1日木曜日

『#真相をお話しします』結城真一郎著  感想・レビュー 現代風ショートミステリ

 『#真相をお話しします』(新潮文庫)

あなたはオチが読めるだろうか?

結城さんの小説は3冊目。

以前の小説とはガラリと趣向を変えた作品で驚いた。

パンドラの箱

『プロジェクト・インソムニア』は、夢の中のクローズドサークルミステリーだし、

『名もなき星の哀歌』は、記憶売買の話なので現実離れしているため、好き嫌いが別れそう。

そこに来てこの作品は現実感のあるストーリーで、一番読みやすい。

この作品で一気にファンを増やしただろうなあ。

2023年、本屋大賞ノミネート作品。


あらすじ

有名私立高校卒、現役東大生の片桐は、家庭教師の仲介ビジネスの営業アルバイトをしている。

ある程度ノウハウを極めた結果、営業成績はトップで仕事は順調だ。

今回の訪問先は、模試の成績が芳しくないという小学6年生の男の子の家。

約束の時間に訪問するも、インターホンを鳴らしても中々出てこない。

いつもと勝手が違う訪問先に違和感を覚えながら、片桐は話を始めるが…。

(惨者面談)

ネタバレ感想・レビュー

本作では中学受験、YouTuber、マチアプ、精子提供、リモート飲み会がテーマとなっています。

散りばめられた伏線の回収の見事さ。

二転三転するストーリー。

後味は悪いけど爽快さもある現代風ミステリです。

  • 惨者面談
  • ヤリモク
  • パンドラ
  • 三角奸計
  • #拡散希望

惨者面談、ヤリモク、#拡散希望が面白かった。

パンドラの真夏の親はもしかしたらと思ったのは私だけかな。

思い込みもあって、5作とも騙された―ってなるのは間違いなし。

人間は、こわい。


『#真相をお話しします』私の評価は★4

ストーリー ★★★★☆  4

キャラの魅力★★★☆☆  3

衝撃度   ★★★★☆  4

おすすめ  ★★★★★  5


2024年7月29日月曜日

『真夜中のマリオネット』知念実希人著 感想・レビュー 顔が良い容疑者

 『真夜中のマリオネット』集英社文庫

八雲??

表紙デザインが一瞬『心霊探偵八雲』の斉藤八雲(さいとうやくも)に見えた。 

八雲シリーズは鈴木康士(すずきやすし)さん。

こちらの作品は、遠田志帆(えんたしほ)さんでした。

遠田志帆さんは、『Another』(角川文庫)のイメージが強くて、女の子しか書かないと勝手に思ってましたが、

『新・心霊探偵八雲 赤眼の呪縛』(講談社)の装画も担当してました。

鈴木康士さんより遠田志帆さんのイラストの方が肉付きが良いイメージ。

2人とも妖絶で素敵なイラストで好きです。

❝ラスト1頁(ページ)、あなたは必ず絶叫する! 衝撃のクライムサスペンス❞ という謳い文句。

ハードル上げまくってます。


あらすじ

救急医の秋穂(あきほ)が救った少年は、天使か、悪魔か――。

一晩かけて遺体をバラバラにする殺人鬼――通称「真夜中の解体魔」の逮捕に向けて警察は躍起になっていた。

その解体魔に婚約者を殺された秋穂。

メンタルをやられ、ようやく職場に復帰をしたところに重症患者が運ばれる。

その患者は、美貌の少年・涼介(りょうすけ)。

無事、命を救うことができた秋穂だが、刑事は彼が『真夜中の解体魔』だと告げる。

涼介は涙を流しながら僕は罠にかけられたと秋穂に訴えた。

彼に翻弄されながら一緒に真犯人を探す秋穂。

涼介は真犯人に操られた人形なのか、それともマリオネット遣いなのか。


ネタバレ感想


初読みの作家さんです。

ストーリーの詰めが甘く、ラストは予想できた。

まず、主人公でヒロインである秋穂に全く共感できず、おいおいとツッコむ所多数でした。

涼介がもし美貌の少年じゃなかったら、秋穂はこんな行動するかなと疑問。

結局顔かよという描写がちらほら。

婚約者をを殺したかもしれない少年に寄り添ったり、言動もイライラする。

倉敷と雪絵さんはなぜわざわざ風俗店で会い、彼は出禁になったのか?

桐生さんと黒崎を殺害する動機が弱い。

遺体の一部で作ったとされるオブジェはどこ?

そして一晩かけてわざわざバラバラにする理由は?

秋穂の婚約者に犯人はどう接触したんだろう?

矢内と紅さんは良い人だった。

辻褄合わせが納得できない作品でした。

ただ、続きが気になってラストまでドキドキはさせてもらえた。

第一章 深夜の来訪者
第二章 シュレーディンガーの少年
第三章 人形たちの輪舞曲

『真夜中のマリオネット』私の評価は★2


ストーリー   ★★☆☆☆  2
キャラの魅力  ★★☆☆☆  2
衝撃度     ★★☆☆☆  2
おすすめ    ★★☆☆☆  2


『仮面』 伊岡瞬著 感想レビュー 仮面の下の秘密

  仮面 (角川文庫) ディレクシアを知る 初読みの作家さんでした。 ページ数は多いけどすぐに読み終えました。 グロ描写ありです。 あらすじ 読字障害というハンディキャップを抱えながらもアメリカ留学の後、情報番組を中心にメディアに露出する三条公彦(さんじょうきみひこ)。 知的で爽...