2024年9月18日水曜日

『殺人と幻視の夜』織守きょうや著 感想・レビュー 友情か告発か

 殺人と幻視の夜 (角川ホラー文庫)

人間の本質は一瞬では見抜けない

きょうやさんの作品を読むのは2冊目。

過去の世界的シリアルキラーは社交性を持ち、表面上は人当たりが良いらしい。

怖すぎます。

犯人の心情は全く理解できなし動機も納得できない。

さらに罪悪感の欠片も持ち合わせていない。

ライトな文章だけどゾクッとするミステリ。

幻視者の曇り空 ―― cloudy days of Mr.Visionary』(二見書房)の文庫化。


あらすじ


大学生の久守(くもり)は、触れた人の後ろ暗い秘密が視える幻視能力を持つ。

その為、人との関りを避けて過ごしていた。

しかしある日、人目を惹く見た目の美大生、佐伯(さえき)に触れ、他殺死体を幻視する。

彼は残忍な連続殺人の犯人なのだろうか。

次に起きる事件を止めるべく、何とか彼から証拠を手に入れようとするが、友情が芽生えてしまう。


ネタバレ感想

同じ町で連続殺人事件が起きているのに、登場人物たちは他人事。

まず、主人公の久守にイライラする。


特異な体質のせいでこんな性格になったのかもしれないが、もっとなんかこうないの?

佐伯の方が魅力的に描かれている。

彼の絵、特に『喪失』を見てみたいし、展示会に行ってみたいとさえ思った。

親しくはなりたくないが(笑)

それとミスリードを狙っているせいか、幻視能力の設定が最初めっちゃ分かりにくい。

いつも見えるわけじゃないし、見えたのは過去じゃない。

決まった未来が見える?

え?そうなん?って思った。

何の為に見えるのかは理由がなかった。

しかも一瞬だけだし。

続き見れないし。

加山(かやま)夫妻のエピソードは蛇足かなと思ったけど、人は何を考えているか分からないっていう意味で必要かも。

後、タイトルを変えたらもっと売れそうなのになと思った。

1度改題しているようだけど。

青依青(あおいあお)さんのハードカバーの装丁の方が好み。

出版社変わってるようだから使えなかったのかな。

久守が公園うろうろしたりしてるから、容疑者にされそうでどきどきした。

彼の能力は何の役にも立たないなって思ってたけど、佐伯を2度助ける形になったから良かったのかな。

そして恋愛に関して鈍感すぎた。

ツッコミどころはあるけれど面白かった。


『殺人と幻視の夜』私の評価は★4

ストーリー  ★★★☆☆ 3

キャラの魅力 ★★★★☆ 4

衝撃度    ★★★★☆ 4

おすすめ   ★★★☆☆ 3




2024年9月9日月曜日

『罪びとの手』天祢涼著 感想・レビュー タイムリミットは96時間、4つの謎を解き明かせ

罪びとの手 (角川文庫)  


家族愛か復讐か

AID(配偶者間人工授精)に触れている作品。


天祢涼(あまねりょう)さん、初読みの作家さん。

「殺したか」の呟きにどんな意味が?

伏線と疑惑が絡むミステリ小説。


あらすじ

川崎区の廃ビルで身許不明の中年男性の遺体が酔っ払いたちに発見される。

事件性なしと早々に判断されたが、刑事の滝沢圭(たきざわけい)は引っかかりを覚えた。

死亡推定日時と遺品の壊れた腕時計が示す日付とのズレに事件性を疑っていた。

ゴリ押しで解剖に回すが、そこでも事件性なしと言われる。

廃ビルイメージ

そこに、遺体を引き取りに来た葬儀屋・御木本悠司(みきもとゆうじ)が、自分の父親だと申し出る。

さらに、遺体を目にした悠司が「殺したか」と呟いたいう証言を得た滝沢は、奇妙な偶然で片付けるには説明がつかないと踏む。

果たして本当にその遺体は悠司の父親なのか。


ネタバレ感想

読みやすい文章だった。

キャラの印象は、悠司が微笑みを絶やさないキレ者。

ウェディングプランナーの兄の昇一(しょういち)はおしゃれだけど、バカそうに見えた。

長岡姫乃(ながおかひめの)はクールビューティで女性受けが良いキャラだと思う。

悠司が黒幕?という疑惑に駆られ、刑事、昇一、中守(なかもり)、姫乃視点でストーリーは進む。

いやーそのオチはちょっと納得いかないなあが正直な感想。

謎が分かるとちょっと騙された感あってうーん、それはないわー。

何度も違うって書いてたよね(笑)

でも途中まではめっちゃ良かった。

悠司と姫乃と伴藤(ばんどう)さんでずっと御木本葬儀社を守ってほしい。


『罪びとの手』私の評価は★3

ストーリー ★★★☆☆  3

キャラの魅力★★★☆☆  3

衝撃度   ★★☆☆☆  2

おすすめ  ★★★☆☆  3

2024年9月1日日曜日

『方舟』 夕木春央著 感想・レビュー 思考実験「トロッコ問題」を彷彿

方舟 (講談社文庫)



 帯の煽り文句は本当だった

序盤はよくあるクローズドサークル。

連続して起こる殺人事件、そして犯人の目的が全く分からない。

なので、「トロッコ問題」のようにどうやったら生き残れるかを模索しながら読んでいく。


あらすじ


柊一(しゅういち)は、大学時代のサークルの友人たちと、従兄の翔太郎(しょうたろう)と共に山奥の地下建築を訪れる。

道に迷ったせいで、地下建築で一夜を過ごす羽目になった柊一たち。

同じように迷い込んだ矢崎一家の三人も地下建築に合流する。
ノアの箱舟

だが、翌朝に起こった地震のせいで、扉が岩で完全にふさがれてしまう。

さらに地盤に異変が起き、水が侵食し始めた。

このままでは地下建築は水没してしまう。

そんな矢先に殺人事件が発生。

❝誰か一人を犠牲にすれば脱出できる。

生贄には、その犯人がなるべきだ。

ーー犯人以外の全員が、そう思った。❞

水没までのタイムリミットは約1週間。

それまでに、殺人犯を見つけなければならない。

だが、第二の殺人事件までもが発生してしまう。






地下建築(廃墟)の入口イメージ

登場人物

・越野柊一(こしの)…………………主人公の僕。システムエンジニア。

・篠田翔太郎(しのだ)………………柊一の従兄弟。親の遺産で生活。世渡り上手で頭が良い。

── サークル仲間 ──

・西村裕哉(にしむらゆうや)………アパレル勤務。お調子者。
・絲山隆平(いとやまりゅうへい)…ジムのインストラクター。柊一に敵意を持っている。
・絲山麻衣(まい)……………………幼稚園の先生。隆平の妻。
・野内さやか(のうちさやか)………ヨガ教室勤務。花を慕っている。
・高津花(たかつはな)………………事務員。一人称は「うち」

── 矢崎家 ──
・幸太郎(こうたろう)…………電気工事士。
・弘子(ひろこ)………………………幸太郎の妻。
・隼人(はやと)………………………高校一年生。やや幼い印象。

ネタバレ感想

探偵役の翔太郎、助手役の柊一が証拠を集め、動機を考察し、みんなを食堂に集めて推理を披露する。

ここまではよくある話だし、意外な人物が犯人というのは想定内。

そこまで面白いとは思わなかった。

人物描写も薄いし?

人と人との繋がりの描写も深みがない。

例えば、この集まりに従兄弟連れて来るか?と疑問。

矢崎一家同様に、翔太郎だって胡散臭い。

隆平と麻衣がなぜ結婚したのか分からないし、柊一が彼女に惹かれるのがよく分かんないし。

だが、エピローグで完全に打ちのめされた。

こんなことってある?

ネタバレ本当に注意↓↓




探偵役が敗北するなんて

読み返すと犯人のセリフが違った意味に聞こえる。

サイコパス過ぎるやろ。

翔太郎は完全にピエロ。

どうすれば助かったんだろう。

何でタイムリミット一週間まで待ってたんだろう。

さっさと何人かで脱出して助け呼んだらいいのにっていう疑問はあるけれど、ラストの衝撃はきっと忘れられない一冊になる。

実写化しそうだな。

『方舟』私の評価は★4


ストーリー   ★★★☆☆  3
キャラの魅力  ★★☆☆☆  2
衝撃度     ★★★★★  5
おすすめ    ★★★★☆  4





2024年8月20日火曜日

『滅茶苦茶』染井為人著 感想・レビュー こんなはずじゃなかった!

 滅茶苦茶 (講談社文庫 )

付き合う人物は見極めろ


❝予測不能の展開、予想外の読後感

中毒者続出の絶叫系転落ミステリー!❞

ハードル上げすぎなコメント大丈夫?と思ったけどその通り!

美世子イメージ

やっぱり染井作品は面白い。

『正体』しか読んだことない人は驚くかも(笑)


あらすじ


2020年、マスク必須のコロナ禍の日本。

リモートワークを余儀なくされたアラフォーの美世子は、マッチングアプリで出会った年下の男性に惹かれる。

進学校に通う礼央は、小学校時代の級友と再会し、同級生と距離を置く。
礼央イメージ

三人の子持ちの茂一は、ラブホテルの経営に給付金が下りず絶望する。

そして、人生で関わるはずもない三人の人生が交差する。

登場人物

・今井美世子(いまいみよこ)…… 30代後半。仕事人間。美人。親友の薦めでマッチングアプリを始める。

・二宮礼央(にのみやれお)……… 県内随一の進学校に通う。通学電車で幼馴染と偶然再会する。

・戸村茂一(とむらもいち)……… ラブホテルを3軒経営するが業績悪化。スナック『ルージュ』を営む恵(めぐみ)に詐欺を持ちかけられる。


ネタバレ感想

染井さんは相変わらずクズっぷりの描き方がすごい。

茂一イメージ

ストーリー構成としては『悪い夏』に似てるかな。

3人とも本当にこんなはずじゃなかったという転落人生。

着地点が分からず転がっていく。

この作品を読んで、付き合う人によって人生は180度変わるんだなと悟った。

それとある程度の教養は必要。

3人が奇跡の交差をしたときの会話とシチュエーションに思わず吹き出しました。

状況がひっ迫してるのに何かおかしくて。

芽衣(めい)と恵さんがしつこくて怖かった。

2人はちゃんと制裁を食らったんだろうか。

美世子さんだけ自業自得ではなく、ハズレくじを引いてしまった感じ。

こんな女性が国際ロマンス詐欺に引っかかってしまうんだなあ。

彼女は立ち直りも早そうなのでそこは良かったけど。

恋はもういいやって感じで、独身のまま礼央の世話をずっと焼いてくれそう(笑)

礼央は何度も聖也(せいや)たちと離れるチャンスあったのになあ。

持続化給付金の定義の曖昧さよ。

でも読後感は良かった。

鍋パ定期的にしてほしい。

タイトル通りのストーリーで滅茶苦茶でした(笑)

実写化向きかも。


『滅茶苦茶』私の評価は★4

ストーリー  ★★★★☆ 4

キャラの魅力 ★★★★☆ 4

衝撃度    ★★★★★ 5

おすすめ   ★★★★☆ 4

2024年8月13日火曜日

『貴方のために綴る18の物語』 岡崎琢磨著 感想・レビュー 奇妙な仕事

貴方のために綴る18の物語 (祥伝社文庫 ) 


あしながおじさん?

ある日、老紳士から依頼された仕事は、1日1話読むだけで総額143万円との胡散臭い内容。

この仕事の本来の目的にせまる恋愛ミステリ

18本の短編を読み進めていくうちに、心はかき乱されていく。




あらすじ

駅のホームで見知らぬ老紳士から声をかけられた美織(みおり)は、思い出のレトロな喫茶店で奇妙な依頼を受ける。

それは、1日1話、謎の人物が執筆した18本の短編を読み感想を書くこと。

それだけで報酬は破格の143万円。

詐欺だと疑う美織だが、毎日届く短編に美織は没頭し始める。

この仕事の真の目的とは?


ネタバレ感想

主人公の美織は、何かに思い悩んでいるようで性格も暗くじめっとした印象を受けた。

後に理由は分かるんだけど。

短編はどれもそれなりに面白く、様々な恋愛模様が描かれている。

ほっこりするお話は少なく、どちらかといえばクソキャラが多め。

星新一さんのショートショートまではいかないが、どんでん返しもあって良かった。

彼女が書いた感想は最初共感できるのも多かったのに、3週目から乱雑すぎる。

すぐ自殺しようとする美織にはうーん。

立ち直ったとは思えないし、本当に前を向いていけるかなとこれからも心配ではある。


『貴方のために綴る18の物語』私の評価は★2

ストーリー  ★★★☆☆ 3

キャラの魅力 ★★☆☆☆ 2

衝撃度    ★★☆☆☆ 2

おすすめ   ★★★☆☆ 3

2024年8月5日月曜日

『みんな蛍を殺したかった』木爾チレン (きな)著 感想・レビュー 誰も幸せになれない

 『みんな蛍を殺したかった 』(二見文庫 )

❝私を殺してくれて、ありがとう❞

このストーリーのキャラたちではどんなルートを選択してもバッドエンドになってしまうだろう。

冒頭の未送信のメールに衝撃を受け、なぜそんなメッセを打ったのか答えを知りたくなる。

女子の嫌な部分を見事に描いている作品。



あらすじ

美しい少女・蛍が線路に身を投じる。

京都の偏差値が低い高校に通うオタク女子三人。

もちろんスクールカースト底辺に属し、生物部に籍を置く。

そんなある日、東京から美少女・蛍が転校してきた。彼女はなぜか自分もオタクだと宣言し、生物部に入部してくる。

蛍とそれぞれ絆を深めていく三人だが、事態はあらぬ方向へと進んでいく。


登場人物

七瀬蛍(ななせほたる)……二次元から飛び出したかのような美貌の持ち主。

大川桜(おおかわさくら)…オンラインゲーム『魔法世界』(まじかるわーるど)にハマるボクっ子。アニメ声。

五十嵐雪(いがらしゆき)…裕福な家庭で育つが、母の愛に飢えている。クラスメイトの金づる。

猫井栞(ねこいしおり)……母は美人で有名人。顔の火傷のせいで筆談。小説を書いている。

リイ君 ………………………『魔法世界』での桜(ナデシコ)の恋人。

アロワナ ……………………生物部にいる古代魚。

デュビア ……………………ググると後悔します(笑) 蛍が育てている虫。


ネタバレ感想

蛍に裏がありそうと思いながら読んだけど、やっぱりそうだった(笑)

藤高さんは、生まれたての赤ちゃんが六花に見えてしまうぐらい精神を病んでしまったんだろうな。

ただ、そんな偶然ある?っていう狭い世界だった。

誰か一人くらいハッピーエンドにしてあげて。

オタクはみんなブスではないと思うし、性格悪いという設定はどうだろう。

蛍の勝手な復讐心で、歯車が狂っていくし歪みすぎ。

復讐する相手は違うのにね。

そして母親の愛情の注ぎ方で子供は変わってしまうだなと。

桜と栞の母親は酷かったし、父親も尻に敷かれすぎて頼りない。

唯一綺麗な心の持ち主だった栞は、母の世話なんかしなくて良いのにと思った。

彼女は蛍の我がままも受け入れたし。

兄弟間で容姿レベルが違いすぎるのが3組もあるなどツッコミどころもあるが、ドロドロとしていて面白かった。

読後感は良くないけど深夜枠で実写化しそう。


『みんな蛍を殺したかった』私の評価は★2

ストーリー  ★★★☆☆ 3

キャラの魅力 ★★☆☆☆ 2

衝撃度    ★★★☆☆ 3

おすすめ   ★★★☆☆ 3


2024年8月1日木曜日

『#真相をお話しします』結城真一郎著  感想・レビュー 現代風ショートミステリ

 『#真相をお話しします』(新潮文庫)

あなたはオチが読めるだろうか?

結城さんの小説は3冊目。

以前の小説とはガラリと趣向を変えた作品で驚いた。

パンドラの箱

『プロジェクト・インソムニア』は、夢の中のクローズドサークルミステリーだし、

『名もなき星の哀歌』は、記憶売買の話なので現実離れしているため、好き嫌いが別れそう。

そこに来てこの作品は現実感のあるストーリーで、一番読みやすい。

この作品で一気にファンを増やしただろうなあ。

2023年、本屋大賞ノミネート作品。


あらすじ

有名私立高校卒、現役東大生の片桐は、家庭教師の仲介ビジネスの営業アルバイトをしている。

ある程度ノウハウを極めた結果、営業成績はトップで仕事は順調だ。

今回の訪問先は、模試の成績が芳しくないという小学6年生の男の子の家。

約束の時間に訪問するも、インターホンを鳴らしても中々出てこない。

いつもと勝手が違う訪問先に違和感を覚えながら、片桐は話を始めるが…。

(惨者面談)

ネタバレ感想・レビュー

本作では中学受験、YouTuber、マチアプ、精子提供、リモート飲み会がテーマとなっています。

散りばめられた伏線の回収の見事さ。

二転三転するストーリー。

後味は悪いけど爽快さもある現代風ミステリです。

  • 惨者面談
  • ヤリモク
  • パンドラ
  • 三角奸計
  • #拡散希望

惨者面談、ヤリモク、#拡散希望が面白かった。

パンドラの真夏の親はもしかしたらと思ったのは私だけかな。

思い込みもあって、5作とも騙された―ってなるのは間違いなし。

人間は、こわい。


『#真相をお話しします』私の評価は★4

ストーリー ★★★★☆  4

キャラの魅力★★★☆☆  3

衝撃度   ★★★★☆  4

おすすめ  ★★★★★  5


『仮面』 伊岡瞬著 感想レビュー 仮面の下の秘密

  仮面 (角川文庫) ディレクシアを知る 初読みの作家さんでした。 ページ数は多いけどすぐに読み終えました。 グロ描写ありです。 あらすじ 読字障害というハンディキャップを抱えながらもアメリカ留学の後、情報番組を中心にメディアに露出する三条公彦(さんじょうきみひこ)。 知的で爽...