2023年4月30日日曜日

『線は、僕を描く』砥上裕將 感想・レビュー 白と黒の水墨画の世界

人生を変える出会い


どこで運命的な出会いが起きるか分からない。


そう感じさせずにはいられない小説。

この小説は、水墨画という美術界の中でも馴染みのないフィールドを描くが、全く分からない私も入り込めた。

静かだけどしっかりした文章で緩急ある作品になってる。

横浜流星さん主演で映画化している。


あらすじ


大学生の青山霜介(あおやまそうすけ)は、バイト先で篠田湖山(しのだこざん)に声をかけられ、運命の出会いを果たす。

黒い線だけで表現された【水墨画】の世界に、彼はどっぷりと浸かっていく。

ガラスの箱から這い出せなかった霜介の世界が、瞬く間に変わりはじめる。






ネタバレ感想


実際に本物の水墨画見て見たくなった。

元々のセンスは大事。

でも出来過ぎたストーリーだと思わない。

なぜなら霜介はちゃんと努力してるから。

朝起きてから日が沈むまでずっと描き続けて、食べることもそんなにせず。

ストーリーに緩急はなく、淡々と進む。

ドラマチックな展開はない。

空虚な青年が人と出会い、水墨画を通して描かれる人生を再生させるストーリー。

おいしいお茶飲みたくなった
水墨画に静かに対峙している姿が綴られるが、飽きは来ない。

千瑛(ちあき)とのベタな恋愛パートがあまりないのも良い。

霜介と湖山先生の会話に泣けた。

ちなみに霜介が影響を受ける翠山(すいざん)先生や斉藤さんは映画のキャスト欄になかった。

芸術家のタイプは色々あるんだなあと思った。

『線は、僕を描く』私の評価は★4

ストーリー  ★★★★☆ 4
キャラの魅力 ★★★★☆ 4
衝撃度    ★★★☆☆ 3
おすすめ   ★★★★☆ 4

2023年4月26日水曜日

『三日間の幸福』三秋縋 感想・レビュー 自分の命の価値は?

長い人生より凝縮された三日間


この作品は、「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」(全3巻)というタイトルでコミック化されています。

設定はリアリティがありません。

だけど、簡単に想像しやすく、ストーリーに入り込めます。ハードモードな人生を歩むのが特徴です。

救いようもなく、もがいてあがいて、これを勝ち取るために今まで苦しかったんだ、報われたっていう単純なストーリーでもなく。

答え合わせといきましょうか。

監視員が単純に10歳の時別れたあの子だと思っていた。


あらすじ


未来に何の価値も見いだせなくなった大学生のクスノキは、生活費にも困り、大切な本とCDを売る。

そこで、寿命を売ることができる店を教えてもらったクスノキは、命の査定をしてもらうが、付いた値段はとんでもなく安い金額だった。

彼の前に現れた監視員ミヤギを半ば鬱陶しく思いながら、死ぬ前にしたいことを考え、幸せを摑もうと張り切るが、何をやっても上手くいかなかった。



ネタバレ感想   

❝「答え合わせといきましょうか。」❞

連絡を取った人たちと和やかな雰囲気になると勝手なイメージを持っていたクスノキだが、この言葉で現実を知る。

こういうところが、三秋さんの小説が好まれる理由かな。

途中までヒメノとミヤギが同一人物だと思ってた。

ミヤギは10歳で別れたヒメノで、再会した2人は離れていた間の思い出話をしながら、残りの人生を過ごすという単純なストーリーではなかった。

ヒメノはクスノキを恨んでいるし、仲良かったナルセも実はそこまで好きじゃなかったとか、人生イージーモードじゃないんだなってとこにリアリティがあった。 

サラリーマンの生涯年収は、2~3億円と言われているから、自分の価値もそれくらいで億単位を貰えると思っていたら、1年1万円という破格の値段。

そして、その値段も違っていて本当は30円。

缶ジュースより安い値段だった。

きっと私もこんな値段なんだろうな。

自販機巡りという発想もすごいなと思った。
レトロ自販機


蛇足的な部分や後付け感が多くて、そうだったっけ?ってなるところがあるが、元はWEB小説だと聞いて納得。

クスノキは友達はいないと言っていたのに、高校生時代はナルセと過ごしていたとか、アピールしてくれてる女の子いたとか。

小学生時代も途中までだけどヒメノと一緒に過ごしてた。

ずっとぼっちってわけじゃない。

さらにクスノキは、容姿にちょっと恵まれているし、ヒメノは超絶美少女だった。

ヒメノに囚われすぎて、幸せを掴めなかった。

だけど、ラストは良かった。

周りの目を気にせず、ミヤギをエスコートする彼は素敵だった。

クスノキとミヤギの三日間は詳しく描かれていないけど、そこもまた良い。

『三日間の幸福』私の評価は★3


ストーリー  ★★★☆☆  3
キャラの魅力 ★★☆☆☆  2
衝撃度    ★★★☆☆  3
おすすめ   ★★★☆☆  3






2023年4月19日水曜日

『蝉かえる』櫻田智也 感想・レビュー まず装丁に惹かれ、読むと余韻が残る

神聖な土地イメージ

虫は嫌いだけど大好きな小説


おとぼけ昆虫好き青年、エリサワが活躍する第2弾。

シリーズ1作目『サーチライトと誘蛾灯』ですっかりエリサワのキャラとストーリーにハマってしまった。

虫のうんちくより、ミステリ小説としてのカラーが強め。

虫嫌いだとしても楽しめます。

私がそうなので(笑)

前作より切なさが重め。

伏線も多岐にわたり、何度か読み返したくなる。

人にお勧めしたい作品。


あらすじ

昆虫好きの青年エリサワは、虫を求めて全国各地を旅する。

だが、行く先々で事件に遭遇してしまう。

彼の目線から解く事件の真相はいつも切なさを含んでいた。

全5編からなる短編集。


ネタバレ感想

 1.蝉かえる ……………森で16年前に少女の幽霊を見た糸瓜(へちま)は、その地域が蝉を食べる風習があると知る。


風習や郷土色が強め。

幽霊の少女の謎が分かった時は切なすぎた。


2.コマチグモ …………少女は母親の元から何故駆け出したのか?エリサワは、少し前にトンボに投石を繰り返す少女を目撃していた。


母への思いをああいった形で行動した少女の心情を思うと泣ける。


3.彼方の甲虫 …………丸江ちゃんのペンションに招待されたエリサワは、スカラベのネックレスを大切にしている青年と出会う。


丸江ちゃんの再登場が嬉しい。

❝「明日がくることと、ぼくに明日があることは、同じではないのです」❞

刺さりました。


繭玉さん家のイメージ
4.ホタル計画 …………エリサワの過去が垣間見れる。


遺伝子組み換えという壮大なテーマを扱い、オダマンナ斎藤、繭玉カイ子、ナニサマバッタの関係性と思いに泣けた。

エリサワは昔から洞察力に秀でていた。

途中まで騙されていた。

一番好きな話。


5.サブサハラの蠅………エリサワの旧友登場。

アフリカ睡眠病を媒介する蠅を研究する医師の話。


自分の身体を使って実験する医師の行動に泣ける。

❝「きれいごとのひとつも口にしなければ、こんな世界、生きていけないじゃないですか」❞

刺さった。


もしドラマ化されるとしたら、エリサワ役は岡山天音さん、窪田正孝さん磯村勇斗さんで見てみたいです。


『蝉かえる』私の評価は★5


ストーリー  ★★★★★  5
キャラの魅力 ★★★★☆  4
衝撃度    ★★★★☆  4
おすすめ   ★★★★☆  4

2023年4月16日日曜日

『サーチライトと誘蛾灯』櫻田智也 感想・レビュー 蝶の数え方

気が抜けた会話が楽しめるミステリ小説 

魞沢泉(えりさわせん)と出会った人たちは、まず彼を変わった人物だと思います。

昆虫好きの彼との会話は、かみ合わないことが多く、そこが面白い。


あらすじ

夜の公園
昆虫オタクの青年、エリサワは、全国各地に虫を求めて足を運ぶ。

だが、飄々とした彼の性格に似つかわしくない不思議な事件に度々遭遇してしまう。


ネタバレ感想


1.サーチライトと誘蛾灯 ……………公園でカブトムシを捕まえに来ていたエリサワがヤカンをヒントに私立探偵の事件の謎を解く。

2.ホバリング・バタフライ …………蝶を捕まえに来ていたエリサワが、山を守ろうとする年配女性と違法投棄の証拠を掴もうとする。

3.ナナフシの夜 ………………………バー〈ナナフシ〉の常連である男性が死亡する。キノコを大量に持ち込んだエリサワは、彼が殺された理由を推測する。

4.火事と標本 ……………………………エリサワは、旅館の店主に見事な標本に纏わる昔話を聞く。

5.アドベントの繭 …………………墓参りに来ていたエリサワは、立ち寄った教会で事情聴取を受ける。

遊歩道イメージ
エリサワの空気を読めない発言に感心(笑)

事件が起きるんだけど、彼のおかげで重いストーリーにならないのが良い。

エリサワと出会った人たちは最初奇異な目を向けるけれど、いつの間にか彼のペースに巻き込まれます。

虫の雑学が増えます。

特に蝶の数え方、衝撃でした(笑)

匹(ひき)や羽(わ)ではなく、頭(とう)だなんて!!

「ホバリング・バタフライ」と「火事と標本」は余韻を残し、泣きそうになった。

エリサワのキャラが受け入れられるかどうかで、この小説の評価が分かれる。



『サーチライトと誘蛾灯』私の評価は★


ストーリー   ★★★★☆ 4
キャラの魅力  ★★★★☆ 4
衝撃度     ★★★☆☆ 3
おすすめ    ★★★★☆ 4

2023年4月12日水曜日

『クローズドサスペンスヘブン』五条紀夫著 感想・レビュー 全員もう死んでいる設定

 クローズドサスペンスヘブン

舞台は天国!特殊設定ミステリ

話のテンポが良く読みやすい!

殺人事件を扱ってるのに気楽に読める不思議な小説。

天国屋敷のイメージ

全員死んでるし容疑者も被害者も全員記憶喪失。

そして、舞台は天国?

おまけに道尾秀介さんと湊かなえさんの応援帯付き。

だったらもう読むしかないでしょ。


あらすじ

首を切られて殺されたはずの俺は、手入れされた洋館の近くのビーチ目覚める。

洋館には俺が最後に到着したらしい。

メンバーは俺を入れて6人。

共通点は、現世で惨殺されたことと記憶を失っていることだった。

毎朝届く謎の新聞には、天国屋敷で見つかった6人の遺体について捜査が始まっているらしい。

俺たちは誰に殺された?

“全員もう死んでる”系ミステリー。

庭園イメージ

ネタバレ感想


登場人物

ヒゲオ…髭面のイケメン。言葉数が多い。

ポーチ…小太りの中年男性。ウェストポーチを付けている。良い人そうだけど頼りない

ヤクザ…30代。ドレッドヘア。開襟シャツに金のネックレス。見た目のわりに繊細

コック…料理がいまいち。コックコートと帽子スタイル。

メイド…この世界で最初に目覚めた。メイド服を着ている。

オジョウ…ドレス姿の10代。


主人公を筆頭に全員胡散臭い(笑)

全員共通しているのは、首を切られて殺されたらしいことと、自身の名前も犯人も覚えていない。

天国屋敷に集められたメンバー内で、また殺人事件が起きちゃう。

でも生き返った(笑)

気合で。

ふふっとなりながら読めるし、だらだらした展開はなかった。   

メイドさん

進行語り役のヒゲオを好きになれるかどうかで印象だいぶ変わるかも。

そして、犯人はこの中にいました。

犯人を当てるのは難しかった。

ラストの終息巻は私、結構好きです。


『クローズドサスペンスヘブン』私の評価は★4


ストーリー   ★★★★☆ 
キャラの魅力  ★★★☆☆ 
衝撃度     ★★★☆☆ 
おすすめ    ★★★★☆ 


2023年4月9日日曜日

『スターティング・オーヴァー』三秋縋 感想・レビュー 2周目の人生

三秋縋のデビュー作



「スターティング・オーヴァー」ジョン・レノンの楽曲タイトル、意味は、やり直す。

あり得ない設定から始まりますが、不思議とハマすり、終わり方も綺麗だ。

殺してやろうとか驚く描写が出てくるけど、心情の描き方はすごいなと思うし、共感できるところもある。

僕が語り口の一人称でストーリーは進む。


あらすじ

❝これは、

二十歳の誕生日を迎えた僕が、

十歳まで時を巻き戻されて、

再び二十歳になるまでの話だ。❞

神様が与えてくれたやり直す人生。

だが、どう考えてもやり直したいことがないくらい、一周目の僕は完璧な人生を歩んでいた。

二周目の人生はどこかで歯車が狂い、徐々に落ちぶれていく。


ネタバレ感想

一周目の僕は幸せだった。

二周目も元の人生に準えて同じように進むつもりだったが、つまずく。

そして、一周目で恋人だったツグミにフラれてしまう。

再会したツグミの横にはトキワがいた。

ミニクーパーのイメージ

トキワは一周目の僕。

ドッペルゲンガー現象。

この辺りからめっちゃ面白くなった。

スクールカースト上位だった僕が、下位に転落。

陰キャサイドの僕が描かれる。

親友だったはずの人間に虐められたり、友達がいなくて無意味な時間を過ごしたり。

ウスミズにお金あげるのはちょっと理解できなかったけども(笑)

妹と僕の関係性が微笑ましくて好き。

「おかえりー」のくだりが可愛すぎた。

今の瞬間、頑張れてない人たちへ、エールを送ってくれるストーリー。


『スターティング・オーヴァー』私の評価は★4


ストーリー  ★★★★☆  4
キャラの魅力 ★★★☆☆  3
衝撃度    ★★★☆☆  3
おすすめ   ★★★☆☆  3


2023年4月6日木曜日

『失われた過去と未来の犯罪』小林泰三 感想・レビュー SF思考実験

 10分しか記憶できない

映画『メメント』を彷彿させるようなワクワク設定。

記憶時間が10分なため、堂々巡りの会話が続きます。

そこにイライラしなければ、きっとこの小説はハマる。


あらすじ

女子高生の結城梨乃(ゆうきりの)は、ある日、自分の記憶が10分しかもたないと気付く。

それは梨乃だけの記憶障害ではなく、母もテレビのキャスターも同じ状態だった。

冷静に分析をした梨乃は、SNSに「全ての人間が記憶障害に陥っています。あなたが、人類が生き残るために、以下のことを行ってください」と書き込み拡散する。

人類は、失った長期記憶を補うため、「外部記憶装置」を開発し、その装置と共に難なく生活するようになっていた。


ネタバレ感想

第一幕は記憶障害の混乱状況が描かれている。

梨乃目線と原発で働く父の結城目線。

2人とも冷静。さすが親子って感じ。メモも大事だけど数値も確認しなくちゃってこと。

第二幕は、外部記憶装置が主流となった世界が描かれている。

記憶のスティックの差し違えで人生変わっちゃった人をコミカルに描いたり、余韻を残したり、使い方次第やトラブルで起きる幾多のストーリーが生まれてた。

東野圭吾さんの『秘密』を彷彿させるストーリーは悲しかったなあ。

一卵性双生児のメモリの使い方はそれで合ってるんかなと思ったり。

コミュニティの調査に来た職員のメモリの使い方は楽しそうだった。

自分ならどうする?って考えたり。

梨乃と聡になった彼は何で話せるんだろうって思って、そこはよく分からなかった。

記憶が伴っていれば、外見は変わっていてもその人になれるのか、色々考えさせられた。

答えは出ないけど(笑)


『失われた過去と未来の犯罪』私の評価は★3


ストーリー    ★★★☆☆  3
キャラの魅力   ★★☆☆☆  2
衝撃度      ★★★☆☆  3
おすすめ     ★★★☆☆  3



『仮面』 伊岡瞬著 感想レビュー 仮面の下の秘密

  仮面 (角川文庫) ディレクシアを知る 初読みの作家さんでした。 ページ数は多いけどすぐに読み終えました。 グロ描写ありです。 あらすじ 読字障害というハンディキャップを抱えながらもアメリカ留学の後、情報番組を中心にメディアに露出する三条公彦(さんじょうきみひこ)。 知的で爽...