2023年3月7日火曜日

『永遠虹路(えいえんこうろ)』綾崎隼 感想・レビュー 彼女は誰を思い何を考えているのか

圧倒的な美貌の持ち主の人生を遡る方式

 「花鳥風月」シリーズ3作目、テーマは「虹」。

このシリーズはキラキラネームのキャラが多いです。

美形揃いで女性は気が強く、男性はクールキャラが定着していて、悩みを抱えている。

後半のストーリーのまとめ方が素晴らしく、優しさが詰まっているため、嫌な思いはあまりすることがなく、いつの間にかハマってしまうシリーズ。


あらすじ

モデルのようなスタイルで目鼻立ちのはっきりした美貌の持ち主の舞原七虹(まいばらなな)。

彼女が歩んできた人生を社会人から遡り、第三者の目線で描く。

七虹がなぜ泣いたのか、理由も言わずバンドをなぜ辞めたのか。

楡野佳乃(にれのよしの)は、親友の七虹と喧嘩をする。

彼女が友人を振った理由が分からないまま、時が過ぎていく。


ネタバレ感想

七虹の行動の謎はラストにかけて分かる。

でも七虹に振り回された人たちは?

特にバンドのメンバーには理由をちゃんとして説明してあげないと。

私はこの辺りで七虹が苦手になった。

美人だから何言っても許されてる所あるよね。

変な見方をすれば、顔面至上主義のご都合ストーリー。

世露(せろ)×莉瑚(りこ)は、結構好きだったんだけどなあ。

あんなにお互い理解し合って支え合ってたのに、ダメになっちゃうのがなー。

ラストは綺麗に終わらせたって感じ。


『永遠虹路』私の評価は★2

ストーリー  ★★★☆☆  3
キャラの魅力 ★★★☆☆  3 
衝撃度    ★★☆☆☆      2
おすすめ   ★★★☆☆    3


『二木先生』夏木志朋 感想・レビュー 共感性羞恥が発動する,テンポの良いストーリー

 主人公が嫌いでも面白い

みんな普通を装う。

だって芸能人じゃないし、ただの一般人だし。

目立って良いことないし、絡まれるとめんどくさい。

でも普通って?

人によるのではないか?

主人公である田井中は、「あ、そんなことまで言ってしまうの?」と歯止めの境界線を失っているキャラ。

彼に好意を寄せる人物は肉親以外いないだろう。

作家さんが女性だと知って驚いた。

こんな作品を執筆できるのは男性だと決めつけてた(笑)


あらすじ

田井中広一(たいなかこういち)は、幼いころから自分なりに変わっていると気づいてた。

普通を装う努力をしたが、もう我慢せずに思ったことを口に出すようにした。

田舎の学校イメージ
黙っていても話しても結局、同じだったからだ。

担任である美術教師の二木良平(にきりょうへい)は、そんな自分と対極にいる普通の人間だと思っていたが、彼のとんでもない秘密を偶然知る。

二木の秘密をチラつかせた田井中と先生の攻防戦が始まった。


ネタバレ感想


読み始めは何だこれ状態だったけど、面白かった。

会話で一触即発の攻防戦が成り立っているし、張り詰めてる空気感がピーンと伝わってくる臨場感がすごい。

二木先生は穏便にすまそうとしているのに、田井中がしつこい。ほんとに(笑)

もう何してんのって思って、共感性羞恥が発動して一瞬本を閉じたり。

映像でも見たいけど、”話のテンポ”と”間”がうまく起動できるとは思えない。

何より「がじぞう先生」の件は苦情必至。

とりあえず何も考えずに読むのがおすすめ。

例え方がうまいので脳内で映像となって浮かびやすい。

❝急激に空腹を訴え始めた。さっきまではストレスで縮み上がっていたくせに、自分のテリトリーに帰ってきた途端、勢いを取り戻した内臓の内弁慶っぷりに少し呆れた。❞

表現の仕方がすごい好き。

田舎の学校は人間関係がリセットできないのが辛い。

例えば、小学校1年生の時に付けられた屈辱的なニックネームが6年間使われる羽目になる。

小学生時代に2年ほど田舎で暮らしたことがあるから分かる。

先生が普通の皮を被ることがどんなに大事だったか。

田井中と二木先生は、いい出会いをしたんじゃないでしょうか。

『二木先生』私の評価は★5

ストーリー  ★★★★★ 5
キャラの魅力 ★★★★☆ 4
衝撃度    ★★★★☆ 4
おすすめ   ★★★★☆ 4






2023年3月6日月曜日

『その白さえ嘘だとしても』河野裕 感想・レビュー 誰かに話したくなるストーリー

バカみたいに一生懸命になる

『いなくなれ、群青』の続編。

「階段島」シリーズ2作目。

自分自身によって捨てられた人々の島。

階段島の七不思議と魔女の正体に触れてある。

今回もタイトルとデザインが素敵だ。




あらすじ

階段島では、クリスマスを控えていた。

だが、ネット通販が使えない事態となり、島の人々は混乱する。

ハッカーが犯人だと聞いた真辺由宇(まなべゆう)は、七草(ななくさ)に協力を頼む。

その頃、島ではクリスマスの七不思議の噂で持ちきりだった。

佐々岡(ささおか)は、困っている女子の為にヴァイオリンの弦を探す。

一方委員長の水谷(みずたに)は、真辺へのプレゼントを悩んでいた。

ネタバレ感想


現代のライフラインであるネット通販の遮断は辛いし、階段島なら尚更。

今回は脇のキャラクターを掘り下げたストーリー。

相変わらず、主人公の七草が何を考えてるかよく分からない(笑)

でも、みんな彼を頼りにしている。

七草より佐々岡の方が行動理論が分かりやすいし好感持てる。
ヴァイオリンの弦


楽器分からないからヴァイオリンの弦見ても針金と思っちゃう、これを機会に覚えとこう。

真辺も好きになって来た。

魔女の正体が分かって、島の全貌が分かり始めたって感じ。

めっちゃ意外な人物が魔女だった。

前作よりテンポ良いので読みやすい。

七不思議の正体を調べるというのがワクワクしたのかも。

ただ、前作すっ飛ばしてこの2作目読んだらきっと理解できない。

『その白さえ嘘だとしても』私の評価は★3

ストーリー  ★★★☆☆ 3  
キャラの魅力 ★★★☆☆ 3 
衝撃度    ★★★☆☆ 3
おすすめ   ★★★☆☆ 3





        







2023年3月4日土曜日

『初恋彗星』綾崎隼 感想・レビュー 恋は無邪気に誰かを傷つける

 一途過ぎて切なすぎる

「花鳥風月」シリーズ2作目、テーマは「星」。

どの作品もそれぞれ話は独立しているけど、この作品は『吐息雪色 』より先に読むことを推奨する。

なぜなら、『吐息雪色』に、メインキャラである舞原星乃叶(まいばらほのか)が登場しているから。


あらすじ

逢坂柚希(あいざかゆずき)と美蔵紗雪(みくらさゆき)は、兄妹のように育った幼馴染。

満天の星空が広がる夜、転校生の星乃叶にプリントを届けようとした2人は、家の前でライターを持つ彼女を見つける。

説得された星乃叶は、紗雪の家で居候を始め、柚希に惹かれていく。

2人は付き合うことになったが、1年後、父の仕事の都合で星乃叶が引っ越すことになる。

そして、琉生(るい)も含めた4人で次の彗星を見ようと約束を交わす。

だが、柚希に打ち明けることができない秘密が紗雪にはあった。

4人のそれぞれの思いが狂おしいまでにすれ違うストーリー。


ネタバレ感想

ああ、と思わず言ってしまった。

それぞれ全員が切なすぎる。

読み始めは、ちょっと恥ずかしくなる恋愛もので面白くないなあと思っていた。

紗雪は、最終的にその位置で良いの?と思ってしまった。

そして、琉生も報われなさ過ぎて…。

彼、めっちゃ良いやつよね?

ずっと長く思っていても、親身になって協力したとしても報われない恋。

側にいるから忘れられなくて、辛くて。

エピローグは涙が溢れた。

シリーズで一番重いストーリーかな。

柚希が主役だけど、紗雪が主役でもある。


『初恋彗星』私の評価は★3

ストーリー  ★★★☆☆ 3

キャラの魅力 ★★☆☆☆ 2

衝撃度    ★★★★☆ 4

おすすめ   ★★★☆☆ 3

2023年3月3日金曜日

『いたいのいたいの、とんでゆけ』三秋縋 感想・レビュー バッドエンドと思いたくない

痛みを伴う余韻を残す


三秋縋さんの作品は、紙タバコやお酒を嗜むなど、世間では不真面目?とされるキャラが良く出てくる。

この作品もそうで、人生をどこかで放り出し、あまり何も望まない無機質なキャラが主人公だ。

感情移入をしたくないキャラだけど共感できる部分もある。

この作品は、目を覆いたくなるような描写が多く、苦しくなるストーリーだけど、ラストまでちゃんと読んでほしい。


あらすじ

あまり外出できなくなった僕、湯上瑞穂(ゆがみみずほ)は、昔自分のせいで文通を絶ってしまった日隅霧子(ひずみきりこ)に一方的に手紙で会おうと綴るが、彼女は現れなかった。

飲酒運転の帰り、人を轢いてしまったと思った僕は、女子高生に思いっきり殴られる。

彼女は死んだことを先送りしたと話す。

10日の猶予を与えらえた僕は、彼女の復讐を手伝うこととなった。

ネタバレ感想


❝人を屈服させるには恥を利用するのが一番だと心得てる人間❞

そういうタイプの人間は、友人も多いし、まさかあの人がという地位を確立しているため、誰も注意できないんだろうなあ。

少女は精神的苦痛と肉体的苦痛を家庭でも学校でも与えられていた。

その内容は凄惨で吐きそうになる。

復讐したいと言う彼女を止める慰めの言葉は、思いつかない。

一時的な慰めでは彼女を救うことはできない。

鬱展開が多し、メンタルがやられてしまう。

だが、ラストに向けて2人の関係性や事実に泣けてくるし、なるほどと思った。

そして、2人の幸せな世界がちゃんとあったのが救い。

進藤や美大生との関係はなくなったのかなあってなったけど。


私がバカなのか「先送り」の能力の定義がいまいち分かりにくく、矛盾箇所がある。

それでも、読んでよかったと思える作品に出会った。

三秋さんの作品は背景の描写が美しい。

❝楓の赤に染まった林の中で********とき、少女は僕の両手を取り、落ち葉の舞う中をからくり時計の人形みたいにくるくる回った。❞

『いたいのいたいの、とんでゆけ』私の評価は★4

ストーリー  ★★★★☆ 4
キャラの魅力 ★★★☆☆ 3 
衝撃度    ★★★★☆ 4
おすすめ   ★★★★☆ 4









2023年3月2日木曜日

『今際の国のアリス RETRY(リトライ)』(全2巻) 麻生羽呂 感想・レビュー ネトフリ,実写化成功ドラマの続き

アリスふたたび

前作『今際の国のアリス』から、約5年ぶりの再開となった新章。

よりによって参加するげえむのジャンルは9「ちきゅうしんりゃく」

アリスとウサギが結婚するのは予想できたけど、他の生き残ったメンバーの後日譚も知りたい。


あらすじ

スクールカウンセラーとなった有栖(アリス)は、仕事に悩む社会人。

妻の柚葉(ゆずは)<旧姓:宇佐木(うさぎ)>は、妊娠中。

柚葉の安産祈願のため、富士山に登山したアリスは、妻からの電話を受け、急ぎ東京へ戻る。

台風が直撃などのトラブルに巻き込まれ、再び今際の国へ迷い込んだアリスは、過去を思い出す。

そして、9の「げえむ」から生きて帰ることを誓う。

果たして、参加者全員助かる方法はあるのか?

アリスは再び、元の世界へ戻れるのか?


ネタバレ感想

 RETRYでは、1つのゲームしかないけれど、難易度高め。

げえむを参加してすぐに死体を見てしまうので、全員冷静さを欠いてしまった。

カプセルの数がどんどん減って、入れなかった人は宇宙人?による制裁が待っていた。

相変わらずのゲームは、巧みに心理を揺さぶり、思い込ませてしまう。

タイガのような危険人物はあれだけど、全員で生き残れたのになあ。

ネトフリの宣伝を兼ねての短い連載だったようで、2巻で完結。

絵は変わってたけどやっぱり面白い。

❝また寄り道でもしてたの?❞

ウサギのセリフが意味深。

「また」にしっかり傍点が付いてた。

出産という大変な状況に身を置いていたから、一時的に記憶が戻っていたのかな。

主人公は変わるけど、スピンオフ作品『今際の路のアリス』もおすすめ。


『今際の国のアリス RETRY』私の評価は★3


ストーリー  ★★★★☆ 4
キャラの魅力 ★★☆☆☆ 2
衝撃度    ★★★★☆ 4
おすすめ   ★★★★☆ 4


2023年3月1日水曜日

『蒼空時雨』(あおぞらしぐれ)綾崎隼 感想・レビュー 雨宿りの不思議な恋愛群像劇 

幻想的に見える雨の路地

「花鳥風月シリーズ」第1作目

このシリーズは、恋愛ものだけどありきたりな展開ではなく、ある意味騙される作風が魅力的です。

男性キャラは、割と寡黙でクール、女性は肉食系が多い。

さらにクラスで一番、学校で一番のイケメン(もちろん高身長で頭も良い)、誰もが振り向くぐらい容姿が整ってる女性、生まれも育ちもお墨付きの人物などが登場するため、どこか遠い世界をのぞいてるような感覚に陥るため、感情移入はそこまでできない(笑)

でも、中毒性があり、気付いたら全作揃えてました(笑)

1冊だけ読んでも良いし、シリーズで読むと『吐息雪色』に風夏(ふうか)が登場して、おおってなったりします。 

あらすじ

誕生日を明日に控えた雨の夜、舞原零央(まいばられお)は、アパート前で倒れていた女性を成り行きで泊めることになる。

譲原紗矢(ゆずりはらさや)と名乗った彼女は、帰る場所も仕事もないと言い、住む場所が見つかるまでという条件で居候を始める。

そして1ヶ月が過ぎたころ、紗矢は事情を語りだす。

零央と紗矢を繋ぐ線路イメージ

一方、零央は紗矢に対して黙っていたことがあった。

雨の日に出会った2人の恋の行方は?

そしてお互いの事情とは?


ネタバレ感想

零央視点から始まり、紗矢視点に切り替わる。

キャラの視点が変わり、それぞれの繋がりになるほどと思う手法が用いられていた。

世間めっちゃ狭いなと思うけど面白いので良い。

紗矢は、死のうと思った時、中学3年の時に出会った舞原零央を思い出す。

彼のことを調べて近づき、運命の人だから私を愛して下さいと詰め寄る。

彼女の行動は通報されてもおかしくないけれど、過去の事情を知ると同情してしまう。

このままうまくいくのかなと思ったら、零央と思っていた相手は、同じアパートの
紀橋朱利(きのはししゅり)だった。

❝私が愛したのは一体誰❞

この辺から、ストーリーは一気に面白くなる。

そして、零央(本物)と仲良しの先輩、風夏(ふうか)が登場する。

私は風夏の性格が苦手。

双子の姉である夏音(かのん)は好きだ。

綾崎隼さんの作品は双子も多い尾。

夏音は、好きな人に区別してもらいたくて、性格も変えて話し方も変えた。

思い人を永遠に悟られないようにしながら。

彼女は、人の痛みを理解していて優しく、切ない恋をしていた。

夏音のエピソードが一番泣ける。

零央は、性格変わり過ぎて完全に当て馬だ(笑)

彼がクールなままならまた違ったストーリーだったかもしれない。

『蒼空時雨』私の評価は★3

ストーリー  ★★★☆☆ 3
キャラの魅力 ★★☆☆☆ 2
衝撃度    ★★★☆☆ 3
おすすめ   ★★★☆☆ 3

『仮面』 伊岡瞬著 感想レビュー 仮面の下の秘密

  仮面 (角川文庫) ディレクシアを知る 初読みの作家さんでした。 ページ数は多いけどすぐに読み終えました。 グロ描写ありです。 あらすじ 読字障害というハンディキャップを抱えながらもアメリカ留学の後、情報番組を中心にメディアに露出する三条公彦(さんじょうきみひこ)。 知的で爽...