2023年4月19日水曜日

『蝉かえる』櫻田智也 感想・レビュー まず装丁に惹かれ、読むと余韻が残る

神聖な土地イメージ

虫は嫌いだけど大好きな小説


おとぼけ昆虫好き青年、エリサワが活躍する第2弾。

シリーズ1作目『サーチライトと誘蛾灯』ですっかりエリサワのキャラとストーリーにハマってしまった。

虫のうんちくより、ミステリ小説としてのカラーが強め。

虫嫌いだとしても楽しめます。

私がそうなので(笑)

前作より切なさが重め。

伏線も多岐にわたり、何度か読み返したくなる。

人にお勧めしたい作品。


あらすじ

昆虫好きの青年エリサワは、虫を求めて全国各地を旅する。

だが、行く先々で事件に遭遇してしまう。

彼の目線から解く事件の真相はいつも切なさを含んでいた。

全5編からなる短編集。


ネタバレ感想

 1.蝉かえる ……………森で16年前に少女の幽霊を見た糸瓜(へちま)は、その地域が蝉を食べる風習があると知る。


風習や郷土色が強め。

幽霊の少女の謎が分かった時は切なすぎた。


2.コマチグモ …………少女は母親の元から何故駆け出したのか?エリサワは、少し前にトンボに投石を繰り返す少女を目撃していた。


母への思いをああいった形で行動した少女の心情を思うと泣ける。


3.彼方の甲虫 …………丸江ちゃんのペンションに招待されたエリサワは、スカラベのネックレスを大切にしている青年と出会う。


丸江ちゃんの再登場が嬉しい。

❝「明日がくることと、ぼくに明日があることは、同じではないのです」❞

刺さりました。


繭玉さん家のイメージ
4.ホタル計画 …………エリサワの過去が垣間見れる。


遺伝子組み換えという壮大なテーマを扱い、オダマンナ斎藤、繭玉カイ子、ナニサマバッタの関係性と思いに泣けた。

エリサワは昔から洞察力に秀でていた。

途中まで騙されていた。

一番好きな話。


5.サブサハラの蠅………エリサワの旧友登場。

アフリカ睡眠病を媒介する蠅を研究する医師の話。


自分の身体を使って実験する医師の行動に泣ける。

❝「きれいごとのひとつも口にしなければ、こんな世界、生きていけないじゃないですか」❞

刺さった。


もしドラマ化されるとしたら、エリサワ役は岡山天音さん、窪田正孝さん磯村勇斗さんで見てみたいです。


『蝉かえる』私の評価は★5


ストーリー  ★★★★★  5
キャラの魅力 ★★★★☆  4
衝撃度    ★★★★☆  4
おすすめ   ★★★★☆  4

2023年4月16日日曜日

『サーチライトと誘蛾灯』櫻田智也 感想・レビュー 蝶の数え方

気が抜けた会話が楽しめるミステリ小説 

魞沢泉(えりさわせん)と出会った人たちは、まず彼を変わった人物だと思います。

昆虫好きの彼との会話は、かみ合わないことが多く、そこが面白い。


あらすじ

夜の公園
昆虫オタクの青年、エリサワは、全国各地に虫を求めて足を運ぶ。

だが、飄々とした彼の性格に似つかわしくない不思議な事件に度々遭遇してしまう。


ネタバレ感想


1.サーチライトと誘蛾灯 ……………公園でカブトムシを捕まえに来ていたエリサワがヤカンをヒントに私立探偵の事件の謎を解く。

2.ホバリング・バタフライ …………蝶を捕まえに来ていたエリサワが、山を守ろうとする年配女性と違法投棄の証拠を掴もうとする。

3.ナナフシの夜 ………………………バー〈ナナフシ〉の常連である男性が死亡する。キノコを大量に持ち込んだエリサワは、彼が殺された理由を推測する。

4.火事と標本 ……………………………エリサワは、旅館の店主に見事な標本に纏わる昔話を聞く。

5.アドベントの繭 …………………墓参りに来ていたエリサワは、立ち寄った教会で事情聴取を受ける。

遊歩道イメージ
エリサワの空気を読めない発言に感心(笑)

事件が起きるんだけど、彼のおかげで重いストーリーにならないのが良い。

エリサワと出会った人たちは最初奇異な目を向けるけれど、いつの間にか彼のペースに巻き込まれます。

虫の雑学が増えます。

特に蝶の数え方、衝撃でした(笑)

匹(ひき)や羽(わ)ではなく、頭(とう)だなんて!!

「ホバリング・バタフライ」と「火事と標本」は余韻を残し、泣きそうになった。

エリサワのキャラが受け入れられるかどうかで、この小説の評価が分かれる。



『サーチライトと誘蛾灯』私の評価は★


ストーリー   ★★★★☆ 4
キャラの魅力  ★★★★☆ 4
衝撃度     ★★★☆☆ 3
おすすめ    ★★★★☆ 4

2023年4月12日水曜日

『クローズドサスペンスヘブン』五条紀夫著 感想・レビュー 全員もう死んでいる設定

 クローズドサスペンスヘブン

舞台は天国!特殊設定ミステリ

話のテンポが良く読みやすい!

殺人事件を扱ってるのに気楽に読める不思議な小説。

天国屋敷のイメージ

全員死んでるし容疑者も被害者も全員記憶喪失。

そして、舞台は天国?

おまけに道尾秀介さんと湊かなえさんの応援帯付き。

だったらもう読むしかないでしょ。


あらすじ

首を切られて殺されたはずの俺は、手入れされた洋館の近くのビーチ目覚める。

洋館には俺が最後に到着したらしい。

メンバーは俺を入れて6人。

共通点は、現世で惨殺されたことと記憶を失っていることだった。

毎朝届く謎の新聞には、天国屋敷で見つかった6人の遺体について捜査が始まっているらしい。

俺たちは誰に殺された?

“全員もう死んでる”系ミステリー。

庭園イメージ

ネタバレ感想


登場人物

ヒゲオ…髭面のイケメン。言葉数が多い。

ポーチ…小太りの中年男性。ウェストポーチを付けている。良い人そうだけど頼りない

ヤクザ…30代。ドレッドヘア。開襟シャツに金のネックレス。見た目のわりに繊細

コック…料理がいまいち。コックコートと帽子スタイル。

メイド…この世界で最初に目覚めた。メイド服を着ている。

オジョウ…ドレス姿の10代。


主人公を筆頭に全員胡散臭い(笑)

全員共通しているのは、首を切られて殺されたらしいことと、自身の名前も犯人も覚えていない。

天国屋敷に集められたメンバー内で、また殺人事件が起きちゃう。

でも生き返った(笑)

気合で。

ふふっとなりながら読めるし、だらだらした展開はなかった。   

メイドさん

進行語り役のヒゲオを好きになれるかどうかで印象だいぶ変わるかも。

そして、犯人はこの中にいました。

犯人を当てるのは難しかった。

ラストの終息巻は私、結構好きです。


『クローズドサスペンスヘブン』私の評価は★4


ストーリー   ★★★★☆ 
キャラの魅力  ★★★☆☆ 
衝撃度     ★★★☆☆ 
おすすめ    ★★★★☆ 


2023年4月9日日曜日

『スターティング・オーヴァー』三秋縋 感想・レビュー 2周目の人生

三秋縋のデビュー作



「スターティング・オーヴァー」ジョン・レノンの楽曲タイトル、意味は、やり直す。

あり得ない設定から始まりますが、不思議とハマすり、終わり方も綺麗だ。

殺してやろうとか驚く描写が出てくるけど、心情の描き方はすごいなと思うし、共感できるところもある。

僕が語り口の一人称でストーリーは進む。


あらすじ

❝これは、

二十歳の誕生日を迎えた僕が、

十歳まで時を巻き戻されて、

再び二十歳になるまでの話だ。❞

神様が与えてくれたやり直す人生。

だが、どう考えてもやり直したいことがないくらい、一周目の僕は完璧な人生を歩んでいた。

二周目の人生はどこかで歯車が狂い、徐々に落ちぶれていく。


ネタバレ感想

一周目の僕は幸せだった。

二周目も元の人生に準えて同じように進むつもりだったが、つまずく。

そして、一周目で恋人だったツグミにフラれてしまう。

再会したツグミの横にはトキワがいた。

ミニクーパーのイメージ

トキワは一周目の僕。

ドッペルゲンガー現象。

この辺りからめっちゃ面白くなった。

スクールカースト上位だった僕が、下位に転落。

陰キャサイドの僕が描かれる。

親友だったはずの人間に虐められたり、友達がいなくて無意味な時間を過ごしたり。

ウスミズにお金あげるのはちょっと理解できなかったけども(笑)

妹と僕の関係性が微笑ましくて好き。

「おかえりー」のくだりが可愛すぎた。

今の瞬間、頑張れてない人たちへ、エールを送ってくれるストーリー。


『スターティング・オーヴァー』私の評価は★4


ストーリー  ★★★★☆  4
キャラの魅力 ★★★☆☆  3
衝撃度    ★★★☆☆  3
おすすめ   ★★★☆☆  3


2023年4月6日木曜日

『失われた過去と未来の犯罪』小林泰三 感想・レビュー SF思考実験

 10分しか記憶できない

映画『メメント』を彷彿させるようなワクワク設定。

記憶時間が10分なため、堂々巡りの会話が続きます。

そこにイライラしなければ、きっとこの小説はハマる。


あらすじ

女子高生の結城梨乃(ゆうきりの)は、ある日、自分の記憶が10分しかもたないと気付く。

それは梨乃だけの記憶障害ではなく、母もテレビのキャスターも同じ状態だった。

冷静に分析をした梨乃は、SNSに「全ての人間が記憶障害に陥っています。あなたが、人類が生き残るために、以下のことを行ってください」と書き込み拡散する。

人類は、失った長期記憶を補うため、「外部記憶装置」を開発し、その装置と共に難なく生活するようになっていた。


ネタバレ感想

第一幕は記憶障害の混乱状況が描かれている。

梨乃目線と原発で働く父の結城目線。

2人とも冷静。さすが親子って感じ。メモも大事だけど数値も確認しなくちゃってこと。

第二幕は、外部記憶装置が主流となった世界が描かれている。

記憶のスティックの差し違えで人生変わっちゃった人をコミカルに描いたり、余韻を残したり、使い方次第やトラブルで起きる幾多のストーリーが生まれてた。

東野圭吾さんの『秘密』を彷彿させるストーリーは悲しかったなあ。

一卵性双生児のメモリの使い方はそれで合ってるんかなと思ったり。

コミュニティの調査に来た職員のメモリの使い方は楽しそうだった。

自分ならどうする?って考えたり。

梨乃と聡になった彼は何で話せるんだろうって思って、そこはよく分からなかった。

記憶が伴っていれば、外見は変わっていてもその人になれるのか、色々考えさせられた。

答えは出ないけど(笑)


『失われた過去と未来の犯罪』私の評価は★3


ストーリー    ★★★☆☆  3
キャラの魅力   ★★☆☆☆  2
衝撃度      ★★★☆☆  3
おすすめ     ★★★☆☆  3



2023年4月2日日曜日

『監獄に生きる君たちへ』松村涼哉 感想・レビュー 児相を扱ったライトノベル

児相をテーマにした社会派ストーリー

密室の中、疑心暗鬼にかられながらも繰り広げられる一人一人の告白。

このメンバーの中に、茜を殺した犯人がいるはずだった。

最後まで誰が犯人か分からない。

誰かが嘘の証言をしている。

その綻びを注意深く読み進めながら、犯人を暴け。


あらすじ

【私を殺した犯人を暴け】

手紙の差出人は、真鶴茜(まなづるあかね)。

茜は7年前に亡くなったはずだった。

首を傾げる古谷桜介(おうすけ)は、手紙の指示通り、廃屋へと向かう。

廃屋と化した施設には7年前旅行を共にしたメンバーが集まっていた。

桜介が最後に到着すると無慈悲にもそこは施錠される。

かつての6人は、そこを脱出するために、あの夜の出来事を語っていく。



監禁されたメンバー

古谷桜介 主人公。精神を病んだ父親から虐待を受けていた。

福永律(ふくながりつ)アイドルのような顔立ち。フリーター。かつては喧嘩の常習犯。

越智藍理(おちあいり)桜介と同じ高校へ通う。ロングヘア。見た目はお嬢様風。

手塚佳音(てづかかのん)短髪で狐顔。体格が良い。現在も団地住まい。遠方の高校へ通う。

武井周吾(たけいしゅうご)高身長。片目を隠す前髪のせいで陰気な印象を受ける。

真鶴美弥(まなづるみや) 姉の茜と14歳差。


ネタバレ感想

傷ついた子供たちはもちろんのこと、児相という職場の大変さもひしひしと伝わる作品だった。

児童福祉だった茜さんは本当に立派な人。

大人が良かれと思って保護したことも、その当時の子供にとって幸せじゃなかったというのが悲しい。

誤解されて殺されて尚、子供たちのことを考えてる人だった。

犯人は分かったけれど、美弥はそれでいいの?とそこだけ気になった。

律と俊樹(しゅんき)の心の傷も気になる。

『15歳のテロリスト』など、松村さんの作品は、もっと広く色んな方に読んでもらいたいと思った。


『監獄に生きる君たちへ』私の評価は★3


ストーリー  ★★★☆☆ 3
キャラの魅力 ★★☆☆☆ 2
衝撃度    ★★★☆☆ 3
おすすめ   ★★★☆☆ 3

2023年3月31日金曜日

『名もなき星の哀歌』結城真一郎 感想・レビュー  スワンプマンは誰?

 個人情報で最も大事なのは、記憶──。

結城真一郎さんは、推し作家さんです。

難しいワードも分かりやすく説明してくれるイメージ。

綺麗な文章で読みやすい。

特殊設定ミステリのイメージが強い。

伏線も見事に回収して綺麗にまとまっています。

作家さんの写真を見て、一瞬戸惑ってしまいました。

私、似たような方にフラれたことあります(笑)

でも、そんな個人的な事なんかどうでも良いと思える幻想的で惹かれるSFストーリー。



あらすじ


大学の同級生である良太と健太は、裏稼業として人の記憶を売買する店で働いている。

店のノルマを着々とこなし、調子に乗った彼らは、神出鬼没で話題のシンガーソングライター・星名の素性を調べるという探偵まがいのことを始める。

だが、彼女の素性を洗うにつれ、あり得ない状況や繋がりが浮かび上がり、首を傾げる。

やがて星名の存在が、2人の関係性に綻びを生じてしまう。



ネタバレ感想


見どころは、良平、健太、保科の三角関係の行方。
遭多夢(おうたむ)カフェのイメージ


保科の資金源の謎。

御菩薩池(みぞろけ)一家の殺人事件の犯人。

「保科と関わるな」と恐喝してきたのは誰か。

ナイトの正体は誰なのかです。

さらにナイトはもういない。

健太が賞をもらった作品が、ナイトの作品と酷似。

見どころ多いです(笑)

サイドストーリーとて、石塚巌(いしづかいわお)と認知症の妻が描かれますが、こちらの顛末の方がはっきり言って泣けました。

脅迫までは分かるけど、ジュンさんはなぜ包丁まで??

記憶を入れ替えた動機が若干浅いのでは?(まるで動機が薄っぺらいコナンの犯人のよう…)

なぜ、保科も記憶を消した??

中学高校大学と目まぐるしく人間関係を構築していくはずなのに、小学生時代に好きになった女の子を人生かけてまでずっと好きでいれるのかな?とか。

そして、二度と会えないよさようならで終わりじゃなかった。

記憶を入れた小瓶のイメージ
そして、健太はどうなるんだろうと彼の方が気になった。

健太、良い奴やった。

引っかかること多いけど、伏線の散りばめ方と新しい設定、そして綺麗な感じでまとまるから、惹かれるお話。

宇宙の構造と脳の神経細胞が酷似とか、星に纏わる知識も魅力。

スワンプマンてワード初めて知ったよ。

スワンプマン…考えると混乱
❝「主人公が、主人公だからという理由で助かるのは物語の中で一度きり」とかルールを決めるべきだよ。❞というセリフ、多くの漫画に刺さるよね。





『名もなき星の哀歌』私の評価は★5


ストーリー  ★★★★☆ 4
キャラの魅力 ★★★☆☆ 3
衝撃度    ★★★★☆ 4
おすすめ   ★★★★☆ 4



















『仮面』 伊岡瞬著 感想レビュー 仮面の下の秘密

  仮面 (角川文庫) ディレクシアを知る 初読みの作家さんでした。 ページ数は多いけどすぐに読み終えました。 グロ描写ありです。 あらすじ 読字障害というハンディキャップを抱えながらもアメリカ留学の後、情報番組を中心にメディアに露出する三条公彦(さんじょうきみひこ)。 知的で爽...